第12話 矢附にて(繁信15才)
空想時代小説
宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。
白石にもどった翌日、半年ぶりに矢附の屋敷にもどった。母お勝は、涙を流さんばかりに喜んだ。どうやら幕府の探索方は、この屋敷にも来て証拠がないか探していったらしい。父守信の意向で、真田にかかわるものは一切残していなかったので、何とか切り抜けたということだ。真田ゆかりの物は、繁信所有の脇差しと改まった場で着用する裃ぐらいなのだ。
その夜、繁信はお勝に今までのことを話した。その上で、
「母じゃ、いっしょに松代に行かないか? 真田源斎殿は喜んでお迎えするとおっしゃっている」
「そのことじゃが、以前に小十郎殿から話があった際に、私は矢附に残りたいと申し出た。元々、武家の出ではなくお方さまみたいに城内で暮らすことは考えられぬ。ましてや、そなたは嫁をもらう身分じゃ。その嫁が、上役の娘となれば、わしの立場はない。それよりは、この館の守り役として全うすることが、わしに合っておる。何かあっても、実家は近くだし、知り合いも多い。今さら、知らぬ土地に行く意味はない。守信殿の分骨した墓も西山にある。わしが守らなければ、だれが守る?」
「父の墓守か? 母じゃの一番のつとめかも知れぬの」
繁信は、母の強い決意にそれ以上説得することを諦めた。
矢附の館には、3日間逗留した。松代に行くには、雪が降る前に着かねばならぬ。そんなに長居はできなかったのだ。矢附や近在の知り合いに最後の別れをし、白石城の片倉小十郎に挨拶をして旅立つことにした。そこに、学問の師匠である三井丹後が若い坊さんを連れてきていた。
「繁信殿、ここにいるのは清林寺の修行僧で知念という。わしの縁戚じゃ。困ったやつで、武士になりたいという。しかし、剣の腕はからっきしじゃ。だが、物覚えはよい。筆もたつ。そばにおいておけば、必ず役にたつ。ここにいては武士にはなれぬ。どうか連れていってくれぬか」
繁信が、じっと修行僧を見ていると、
「知念と申します。わたくしは、亡くなった者よりも、生きている者の役にたちとうございます。武士でなくてもかまいません。どうか近くに置いてくだされ」
「年はいくつじゃ?」
「14でございます」
「わしよりひとつ下か。よろしく頼むな」
その言葉に知念は喜びを隠せなかった。そこで、繁信と知念、そして影である幻次郎の3人旅が始まった。
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