第11話 白石にて(繁信15才)
空想時代小説
宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。
松代を出てひと月ほどで、繁信は白石へ着いた。早速、小十郎へ挨拶に伺ったが、正門ではなく、裏口から入るように指示され、忍び込むような動きで、控えの間に通された。しばらくして、小十郎が控えの間に入ってきた。繁信が小十郎の部屋に呼ばれるのが普通だが、異様な雰囲気を感じた。
「繁信、待たせたな」
「殿、この部屋に来られるとはどういうことですか?」
「うむ、そのことじゃ。実は、最近幕府の探索方が来てな。家中に、真田の血筋の者がいるようだのということで、取り調べが入ったのじゃ。そこで、そなたの兄辰信がやり玉にあがったが、偽の家系図で切り抜けた。だが、江戸で見たという知らせがあったということで、辰信ではないということになった。どうやらお主のことらしい」
「偽の家系図とは父の時にも使った昌幸公の弟信尹(のぶただ)殿の末裔というものですか?」
「そうだ。だが信尹殿は幕府の御家人。いずればれる」
「でしょうな。実は、上田の宿で・・・・」
と、繁信は上田であったことを話した。
「阿梅の血筋と言ったのでは怪しまれるな。無理もない。当分の間、気をつけよ」
「ハッ、油断なきよういたします」
「となると、ますますわしの策をすすめなければならぬな」
「殿の策というと?」
「お主を真田の一員にもどす策じゃ。どうだ、源斎殿には気に入られたか?」
「そのことでございます。実は、真田源斎殿の娘ご、加代殿との縁組みの話があります。正式には幸道公の松代入りの後のことということです」
「それは上々。城代家老の婿となれば、仙台藩と松代藩の結びつきはますます濃くなる。幸道公の奥方は仙台藩の出だし、これでこの前の相続騒ぎのような危機があっても何とか乗り越えられる。仙台の危機は松代が助け、松代が危機の際は仙台が助ける。共助体だ」
「わたくしの松代入りは、そのような意味があるのですね。仙台藩のためとあらば、身を粉にして勤めまする」
「うむ、頼もしく思うぞ」
「つきましては、矢附におる母を連れてまいりたいのですが・・・」
「お勝をか? それはどうかな? お勝がうんと言うか? うんと言えばよいのだが・・・」
白石城を出る時には、もう闇夜になっていた。今夜は、城下に泊まるということで、宿をさがしていると、3人の黒ずくめの武士に囲まれた。
「片倉繁信だな」」
編み笠を深くかぶった中央の武士がど太い声で尋ねてきた。繁信は、返事をするかわりに刀に手をかけた。しばらくにらみ合いが続いたが、後方の武士が斬りかかってきたところ、急に左腕を抑えて倒れこんだ。二人目も右腕を抑えている。中央の武士が、
「仲間がいる。退け!」
と言うや否や、走り去って行った。近くには、真田の草の者が使う一文字手裏剣があった。繁信は、
「幻次郎か?」
どこに幻次郎がいるか分からぬが、繁信は頭を下げた。
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