第13話 再度松代へ(繁信15才)
空想時代小説
宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。
秋が深まり、山の上には雪が見られるようになった。碓氷峠を越える旅人は少ない。案の定、山賊に襲われた。
「おいおい、若侍、有り金全部置いていけ」
と、ドスのきいた声で脅かしてきた。その瞬間、その山賊の右腕に一文字手裏剣が飛んできた。
「幻次郎やめよ!」
繁信は、どこにいるかわからぬ幻次郎に叫んだ。そして、山賊どもに
「お主ら、宍戸左衛門殿を知っているか?」
その問いに、首領格の山賊が
「わしらのお頭だが、知り合いか?」
と答えた。
「そうだ。わしは真田繁信という。左衛門殿に会いたい。案内せい」
「若造なのに偉そうな言い方だな。まあ良い。付いてまいれ」
と言いながらも、家来の一人を走らせた。山賊のすみかに案内するわけにはいかないのだ。しばらくすると、宍戸左衛門がやってきた。
「また会えましたな。嬉しうござる。皆の者、前に話した日の本一の兵の孫、真田繁信殿だ。頭を下げよ」
挨拶の後、繁信と知念は山賊のすみかに案内された。そこは山奥のひとつの部落だった。おなごや子どももいる。中には、山賊に連れてこられた者もいるのだろうが、悲痛な顔をしている者はいなかった。
「ここにいる者は、わけあって在の村にいられなくなった者ばかりだ。ここにおれば、役人から搾取されることもなく、平和に暮らせる。まあ、山賊の仕事は命がけだがな」
と宍戸左衛門は笑いながら話した。どぶろくや汁を飲み食いし、話がひと段落したところで、繁信がある話を切り出した。
「左衛門殿、ひとつ相談がある。拙者は、松代へ仕官することになっている」
「それはおめでとうございます。それで相談とは?」
「実は、松代城の東に妻女山(さいじょざん)という小高い山がある」
「川中島の決戦で、上杉勢が本陣を構えたところですな」
「そこに、たちの悪い山賊がおってな。村人たちが難儀しておる。松代藩も何度か退治しに行ったのだが、巧妙なわなにかかり往生してしまった。今は野放し状態じゃ」
「わしらに、その山賊退治を手伝えということですな」
「拙者が仕官したら、それを第一の役目としたいと思っておる」
「うーむ、お助けしたいのは山々なれど、我らは無宿人。関所を越えるわけにはいきませぬ。山越えをするにしても、雪深くなる今からでは、無理でござる。せめてサクラが咲くころにならなければ・・・。また、ここにいる者全てを連れていくわけにもいきませぬ。部落の者を守る者も必要です。行けたとしても10人が関の山かと。妻女山にはいかほどの山賊がおるので・・・?」
「よくはわからん。50人とも100人とも言われておる」
「こちらが圧倒的に不利ですな」
「うむ。そこを何とか頼みたい」
「春になったら手下どもと話し合いまする。お頭はしておりますが、皆の反対を受ければ、何もできませぬ」
「上に立つ者はつらいものじゃ。あてにせず、待っておる」
その夜は、山賊のすみかで寝て、朝には関所に向かった。
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