第7話

  シンイチとリノは、新橋の会社を出て、少し、外を歩いた。

「今日、どうする?」

「うーん、どうしようか?」

 と二人で話をしたが、埒が明かないままだった。

 そして、シンイチとリノは、そのまままた、新橋からJRで新宿まで出た。

 そこで、シンイチとリノは、そのまま食事をして、ホテルで再び、身体の逢瀬を楽しんだ、二人とも、失業をしているのに。

 そして、暫くしてから、シンイチとリノは、夫婦になった。

 夫婦になって、シンイチとリノは、神奈川県茅ケ崎市へ引っ越しをした。

 シンイチは、茅ヶ崎市の地元の食品メーカーに勤務して、リノは、そこのスーパーマーケットのレジの仕事をしていた。

 そのまま子供がいつしかできていて、子供も、もう幼稚園に入学をしていた。

 年々、夏の暑さと冬の寒さが異常なものになっていた。

 それで、シンイチは、音楽のことを忘れて、新しい茅ヶ崎の会社でのんびり仕事をしていた。

 食品メーカーで営業の仕事をしていたが、時々、原材料のある農家へ行くことがあった。

 だから、地方へ行くこともあった。

 関東から、東海、北陸、東北、関西、中国地方、四国、九州へ行くこともあった。食品メーカーでも、ソバ粉の担当になっていた。

 そして、シンイチは、蕎麦粉の実演販売をしないといけなくなっていた。

 ある時だった。

 シンイチは、海老名市のそば店に入って、そば店のソバ打ちを体験することになった。

 その時、ソバ打ちをしていたら、こんな話があった。

 そこのそば店の大将は、ソバを打つ時は、ドラマや音楽のことも気にする暇はないと言った。

 この時、シンイチは、ショックだった。

 もう、50歳になったシンイチは、ソバと音楽のどちらが大事かと問われたら、音楽だった。

 そして、帰ってから、シンイチは、そのまま、気持ちは凹んでいた。

 その日は、妻になったリノが、ソバを用意していた。

「どうしたの?食欲がないね」

「どうせ、オレは、この年になっても、馬鹿にされるんだよ」

「え…」

「不器用で、音楽しか興味がないのに、何だろうって」

「そんなあなた…」

「いや、今日は、ご飯を食べたくない」

 子供が寝静まった部屋で、シンイチは、リノにそう答えた。

 50歳になったシンイチは、初めて、妻の前で、強く口調を荒々しくなった。リノは、少し構えていた。

 何がいけかなかったのかとも思った。

 シンイチは、指原莉乃に似ていたリノを妻にしただけでも満足だった。そして、娘を一人授かった。そして、茅ヶ崎という地方ではありながら、海が綺麗な街で、のんびり暮らすのも悪くないと思っていた。

 リノは、無趣味はシンイチに、一緒に釣りに行こうと言ったり、バドミントンに誘って観たり、キャンプへ行ったりもした。その時のシンイチは、確かに、結婚前に比べたら、笑顔があった。

 いや、それは、リノの自己満足だったかもしれないと思った。

 リノは、夫のシンイチは、ただ、無趣味なだけと思っていた。ただ、シンイチは、それなりに一生懸命に釣りの方法も、家族で勉強をしていた。娘とリノとシンイチは、3人で、釣り教室へ行き、バドミントンをし、ボウリング大会へも行った。そして、そんなシンイチを、妻のリノは、満足をしていた。

 だが、さっき、「音楽を…」の言葉を聞いて、ハッとした。

 そうだ、夫のシンイチは、カラオケ大会で、チャンプになった。

 そして、寝室へ向かったら、シンイチは、涙をあげて布団を被っていた。もう、50歳なのに、子供みたいになっていた。

 一方、夫のシンイチは、そのまままた、自信を持てないで、凹んでいた。久しぶりに、泣いていた。

 リノは、お皿を洗ったら、少し、考えてみた。

 実は、シンイチは、甲状腺の機能が亢進している。

 今では、3か月に一回。内科で、甲状腺のホルモンの数値を抑える薬を飲んでいる。

 それは、シンイチは、ストレスがあったのだろうと妻のリノは思った。

 リノは、関西を離れるとき、「自分は何かをしたい」と思って、上京をしたものの、本当は、ドラマのシナリオライターになりたいが、脚本学校へ行ったが、何百万円もお金を払ったが、駄目だった。民放テレビのドラマの公募に応募したが、駄目だった。また、脚本学校の講師からは、リノの書いた台本が、「いつもフラフラしている」と講評がよく返却されては、リノは、凹んでいた。

 有村架純や高畑充希に憧れていたが、そんな素人が少し、頑張って書いてみても、大学で、国文学や文芸論を学んだ程度で通用する世界ではなかった。

 だから、いつも、夫のシンイチや娘と、テレビの画面で、ゲームをしていた。一方、脚本学校で、どうみても不器用だった、さえない女性が、今では、華々しいデビューをしていた。ドラマのクレジットに、脚本学校の同級生の名前を観た時、自分の才能のなさを実感していた。

 東京の会社時代に、シンイチを観て、興味があったのは、脚本学校の同級生のこともあったと言える。

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