第3話
シンイチは、ここの会社で仕事をして、10年が経っていた。
そして、シンイチは、ここの会社の面接を受けた時、実は、「カラオケサークルの部長をしていた」と言ったら、面接の担当者が、「それいいね」と言って笑っていた。
そして、数日が経ったら、採用されていた。
ただ、それは、カラオケサークルの活動なんて全く関係はなかった。寧ろ、社会なんて学歴が活かせるほど、優しいものではなかった。仕事で怒られ、後輩は、上司になり、そして、恋人は、違う男性と結婚をしていた。
シンイチは、ある頃から、音楽を聴いていたら、ほろっと涙が出てきた。30代後半からだった。
そして、いきものがかりやAKB48の歌を歌おうと思ったら、涙がポロポロ出てきた。
恋人が、いなくなってから、そして、シンイチは、東京都心から横浜市内へ引っ越した時、シンイチは、子供の頃を思い出していた。
「そうだ、オレは、ミュージシャンになりたかった」と思い出した。ただ、シンイチは、今の会社を辞めて、それで、「歌手になる」と決意表明ができるほど、元気はなかった。
ただ、学生時代、カラオケサークルの仲間と関西地方へ合宿へ行った。その時、大阪と奈良へ旅行をしたが、その時、サークルの男の部員の地元の公民館で、おばあちゃんやおじいちゃんと集まって歌ったら、シンイチは、「歌が上手い」と言われた。シンイチは、褒められたのは、その時だけだった。
歌が、上手い両親に育てられ、そして、シンイチは、大きくなっていた。
しかし、シンイチは、「歌手になりたい」などといった気持ちに蓋をして、シンイチは、会社の就職活動をしていた。そして、23歳になるとき、シンイチは、社会人になっていた。
前の恋人といても、いつも、シンイチは、どこか歌のことしか考えていなかった。そして、いつも交際をする彼女は、決まってカラオケしかないのだが、世間の女性は、シンイチは、カラオケ以外の趣味はなく、また、無趣味なシンイチに何度か愛想を尽かしていた。
そして、シンイチは、そんなカラオケ以外の趣味はなく、到頭、最初の会社を辞めてしまった。
そして、新橋の会社に決まった。
かれこれ10年は経っている。
今、目の前にいるリノは、関西地方の女性である、地元が。ただ、リノは、そんなシンイチに、「これ、何?」なんて聞いている。
いや、今日も、シンイチは、リノと外回りをしていて、最近では、ゲームセンターへ行っては、ぷよぷよクエストをしたり、ぷよぷよテトリスをしていた。または、会社の同僚とオセロや将棋をしていた。
シンイチは、そんなに強くないのだが、それでも、会社の同僚と付き合っていた。
また、会社のイベントでは、いつもバレーボールやバスケットボールでも参加はしていた。
確かに、リノは、バスケットボールのシュートでも、遠くから決めていた。シンイチは、近くでも決めることはできなかった。
だが、シンイチは、自分でも「かっこよく決めたい」があっても、「そうはいかず」があった。
ただ、シンイチは、母親からそんなに歌のレッスンを、家庭内でしていたのは、一つ理由があった。
それは、シンイチは、色弱だった。
色弱が分かったのは、小学生の時だった。
そして、シンイチは、その頃は、電車の運転士になりたいとか思っていたが、眼科の先生が、診察で「シンイチ君は、パイロットや電車の運転士になれない」と言った。
小学生の男の子に「パイロット」や「電車の運転士」になれないと言うのは、残酷だった。
だが、シンイチの母は、テレビで、その時、マイペース『東京』を観ていたのだが、ピアノの教え子で、一人だけ、演歌歌手になったのがいた。その演歌歌手が、一時期、マイペース『東京』を歌っている番組に出ていた時、シンイチの母親は、涙を流し、そして、教室が、奮発して、公民館を借りた時、その演歌歌手をしている教え子が来たとき、会場がわっと湧いた。みんなは、「サインくれ」とか「握手をして」と賑やかだった。
シンイチは、その演歌歌手こそヒーローだと思っていた。
シンイチは、明日は大丈夫だろうか?とも思っていた。そして、いつも後輩のリノに何となく見くびられているのだが、「やだ、また先輩ヘマをしている」とか「40代になっても、そんな歌しか歌わないのですか」とかいわゆる、被害妄想の気持ちになっていた。
いや、本当は、シンイチは、自信が持てなかった。本当は、ずっと、「歌手になりたい」と言えないばかりに、何度もシンイチは、恋人との交際が駄目になっていたのだから。
ただ、今の会社では、シンイチは、何とか、歌以外のイベントにも参加をし、そして、上司に怒られながらも、10年は仕事をしてきたのだと自信を持っていた。そして、明日は、久しぶりに、カラオケ退会があるのだから。
シンイチは、今まで、自分が、歌しか知らない狭い社会にいたのだと思いながら。
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