第5話


頼む。

状況を整理させてほしい。


家に帰った俺は、自室の机でノートを広げた。

シャープペンでそこに現在の状況を書き込んでいく。

そうでもしないと、この混乱はとても収まりそうになかった。


眠るためにコンビニへ行ったはずが、このままでは徹夜コースだ。


俺はまず、ラブレターを発見するまでの出来事を時系列で書き出した。


先週の金曜日。赤点の英語のテストが返却され、補習授業を受けろと七美先生に言われる。

俺がこの事を知らせたのは、家族以外では華音、白雪、そして明斗のみだ。

そして9日後の今日、日曜日。

朝九時に華音とともに登校。この時点では手紙はなかった。


教室には既に明斗と他の男子生徒がいた。

その後に七美先生、白雪の順で教室に入る。


補習授業中、華音はトイレに立つ。


そして補習授業が終わり、教室を出たのは七美先生、明斗、白雪、俺と華音という順番だった。


その後、俺は靴箱にラブレターが入っているのを見つける。


また、この靴箱がある昇降口はいつもは土日は施錠されている。

今日鍵が開いているのを知っているのは、補習授業が今日あるという事を知っている者のみだ。


そして、ラブレターに書いてあった内容。



水原遊真君へ

突然のお手紙すみません。

私は、あなたのことが好きです。

もしよろしければ、明日の午後4時に特別教室棟の裏にある花壇の前に来てもらえないでしょうか。

お待ちしています。



俺を名指ししていることから、入れ間違いの線は消える。

明日の午後4時にという時間指定から、今日の補習授業後に俺が靴箱を見ると知っている人物が書いた事がわかる。


特別教室棟の裏にある花壇の前というのは、隔日で園芸部の活動場所になっている。

その園芸部のいない日を知っているのは、園芸部の関係者か先生、あるいは付近の特別教室を部室にしている文化部くらいだ。


だからこそ俺はイタズラだと思った。

その場所のことを知らない奴が適当に書いたと思ったのだ。

もし本当に告白のために呼び出すなら、どんな場所かくらいは知っているはずだからな。


だから、もし本物のラブレターだとすれば、園芸部の件を知っている人物だということになる。


それから、俺はラブレターを靴箱に入れた可能性のある人物を順番に書き出していった。


可能性のある人物は、大まかに考えて以下の数人に絞られる。


華音。

彼女はもちろん、俺が補習を受ける事を知っている。

そして補習中にトイレに立ったので時間的には可能。

しかし手紙の指定場所がどんな場所か知らなかった。


白雪。

彼女も、俺が補習を受ける事を知っている。

遅刻してきたため時間的にも手紙を入れる事は可能だ。

園芸部の件を知っているかどうかは正直よくわからない。

しかし仮に知っていたとしても、手紙の文字は白雪の書く字とは明らかに違う。


七美先生。

七美先生も、俺が補習を受ける事を知っている。教師なので、園芸部の件も知っていておかしくはない。

しかし俺の学校の靴箱はどの場所を使うか生徒が自由に決められるようになっており、名札もついていない。

同じクラスの生徒同士なら毎日見ているので自然と分かることだが、担任を持っていない七美先生は知らない可能性が高い。


緑川実咲。

彼女は補習授業を受けていないが、その時間帯に学校周辺にいたため、時間的には可能だ。

特別教室棟に部室がある文芸部に所属しているので園芸部の件は知っているだろう。

しかし俺とはクラスが違う彼女が靴箱の場所を知っているかは疑問が残る。

何より、俺は彼女に補習授業を受ける事を言っていない。


明斗。

明斗も時間的には可能だ。以前、学校に持ってきてはいけないエロい物の貸し借りをした時に、靴箱の場所を教えたこともある。

さらに俺は事前に補習授業を受ける事を奴に話している。

しかし園芸部の件について知っているかどうかはわからない。

緑川実咲とは前から仲が良いので伝わっている可能性もある。

しかし、なにより、明斗はこれから始まるゲームの主人公である。

ゲームのストーリーのどこを見ても、明斗がバイセクシャルだという情報はないし、親友ポジションの俺に告白なんてしたら、その後のゲームがまったく違うものになってしまう。


上記以外の誰か。

まず俺が補習授業を受ける事を知っていて、かつ靴箱の場所を知っているという条件に当てはまる人物は上記の人物以外には思い当たらない。

俺の担任の教師や生活指導の教師(よく靴箱周辺で下校時の監督をしている)は当てはまるかもしれないが、どちらも中年の既婚男性だ。さすがに候補者に含めなくてもいいだろう。


もちろん、俺の頭から重要な考えが抜けている可能性もある。

その可能性は常にある。

自分が完璧だと思うほどうぬぼれてはいない。

しかしこれ以上俺には考えが及ばないのも確かだ。


俺は頭を抱えてしまった。

これでは、誰が俺の靴箱にラブレターを入れたのかさっぱりわからない。

誰もが入れそうな気もするし、誰にも不可能だとしか思えない。


その時、俺のスマホが鳴った。

こんな時間に誰だと思って画面を見ると、明斗だった。


「おお、遊真、悪いな、こんな時間に」


「いや、起きてたから別に構わないよ。どうした?」


「ああ。実はさ、ちょっと教えて欲しい事があるんだけど」


「教えて欲しい事?」


ちょっと待て。

この会話には覚えがある。

この会話は、ゲーム中で主人公が親友の水原遊真に情報提供を求める時の会話だ。


「ああ。遊真は女子と仲が良いから、ちょっとアドバイスが欲しくて」


しかし、まだ時期的にゲームは始まっていないはずだ。

ゲームのシナリオが狂い始めている?


ゲームにないイレギュラーな要素……俺が何かやらかしてしまったか?


俺の動揺をよそに、明斗は言葉を続ける。


「女の子が喜びそうなデートプランについてなんだけど……」


「ちょっと待て」


俺は言った。

ゲームシナリオと同じセリフだ。


ゲームではここから「誰が相手が分からなくちゃアドバイスのしようがないよ。誰が気になってるんだ?言ってみろよ」と続けるのだ。


しかし俺はゲームとは違う事を言う。

そうだ。

これだ。

もし俺の予想が当たっていれば、誰がラブレターを入れたのか判明する。


俺は言った。


「すまんが、先に俺の質問に答えてくれ。お前、もしかして……」






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