一番星は輝いて

第33話 魔法学校




「ご入学おめでとうございます。春が差し込んだこの良い日に、皆さんとお会い出来たことを嬉しく思います。このルペリオンでは――」



桜が満開に咲いた四月。魔法学校へついに入学した私は真新しい制服に袖を通して、新入生の席へと座っていた。

……まさかこの歳になって、再度学生をすることになるなんて。内心少しドキドキしていた。


『わぁ……!リア似合ってる!』

『ちゃんと年相応に見える?』

『うん?』


数日前、初めて制服を着た時の会話を思い出す。その後も私はキオンへ本当に大丈夫かと三度尋ねたし、アイリスにも聞いた。二人は大丈夫と言っていたからきっと大丈夫だろう。


祭壇へと目を向ければ、今もまだ話を続けている校長が居る。こういう時の話が長いのはどこの世界でも共通しているんだなと思いながら、私は欠伸を噛み締めた。




「リア!アイリス!」

「お兄様」


入学式も終わり外でアイリスと話していると、遠くから大きく名前を呼ぶ声が耳へ届いた。振り向かずとも、相手が誰なのか分かる。

にこにこと軽い足取りでキオンはこちらに歩いてきた。その隣にはエメルとカイルも見える。


「二人とも入学おめでとう。制服もとても似合っているよ」

「ありがとうございますっ!」

「今年の一年は赤なんだね」

「はい」


カイルの言葉に私は頷く。制服のネクタイは学年ごとに分かれていて、私たちは赤だった。ちなみにキオンたち二年は青だ。


「……」

「どうしたの?カイル様のこと睨んで」

「誤解を招くような発言はやめてエメル」


不敬罪で捕まるから。私が。

和気あいあいとした雰囲気で雑談を交わすカイルとアイリスを眺めていた所に、横からエメルが話しかけてくる。

どうやら悩みが深まっていくうちに顔が険しくなっていて、それを睨んでると勘違いされたようだった。


――そう、私は今とても悩んでいた。

一週間ほど前の舞踏会で、ノクスがアイリスと結ばれる為の手助けをしようと私は決意した。……まではいいのだけど、一体何をすればいいのか分からないのだ。


自慢じゃないけど、私は生まれてから一度も誰かを好きになったことがない。つまり恋愛経験が皆無ということだ。辛うじて持っているのは漫画や小説の知識くらいだろうか。


幸いなことに、まだアイリスとカイルはどちらも恋愛感情を抱いている様子はなかった。

一先ず参考のためアイリスに好きなタイプを聞いてみたところ〝冷たそうに見えるけど本当はとても優しい人〟だと言っていた。これはカイルよりもノクスの方が当てはまるだろう。

ノクスとアイリスは学年が同じだからこれから接する機会も増えるだろうし……

とりあえずはまだ時間はあるから大丈夫だと、私は逸る心を落ち着かせるように息を吐いた。



その時だった。

突然ざわりと周囲が賑やかになる。海割りの如く、道が開かれて歩いてくる人が居る。一体どこの少女漫画のヒーローだと、視線を向けて息を呑んだ。


センター分けした黒髪に金色に輝く瞳。

間違いない。

あれは、ノア・ブライトン……!


ひか恋に出てくるサブキャラでありながらも、ノクスを差し置いて人気投票第三回で一位を掻っ攫った男だ!(ちなみにノクスは二位だった)

一位特典で作者書き下ろしの幼少期エピソードが公開されて……ノクスの幼少期を見る機会を逃して悔しがった記憶が懐かしかった。

思い出すとまた惜しくなりそうだったので、私は思考を振り払う。


それにしても私が予想していた通り、どうやらノアは今年の特待生の一人のようだ。平民出身にも関わらず、周囲の視線を浴びていることからかなり高い順位なのだと分かる。


「あっ!」


そんな中で、ノアの後ろをついて歩いていた男が突然声を上げた。一体何だと注目が集まる中で、その男は一箇所だけを真っ直ぐと見つめて脇目も振らずに歩いていく。

そして、一人の女の前でその男は立ち止まり、まるで神にでも願うかのように膝をつきながら両手を組んだ。


「ああ……!ずっとお会い出来る日を待ち望んでいました!女神様!」



男は歓喜に叫んだ。

……だから、なぜか私の前で。




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