#55 動き出せば進むだけ
チカと大喧嘩した後、フラフラになりながら家に帰ると、母さんが「タイチ!なんで鼻血出してんの!?服もボロボロじゃない!」と驚いてるのをスルーして、父さんに「就職のことで相談がある」と話して、福井県で採用試験を受けたいことを話した。
イロハさんのお母さんの病気のことも、イロハさんが大学を休学して看病していることも、そして、イロハさんにフラれたことも全部話した。
「それでも、イロハさんの傍に居たい」と話すと、父さんに「採用試験って倍率高くて難しいんだろ?それに復縁できるか分からないのにか?」と驚かれた。
「やるだけやってみて、それでもダメならイロハさんのことは諦める。 でも、今はまだ何もしてないから諦めたくない」
「福井で教職に就けたとしても、最初は仕事が大変だぞ?慣れない土地で特に教師なんて覚えることが沢山あって1年目なんて女の尻追いかけてる余裕なんて無いと思うぞ?」
「うん、分かってる。 でも、離れたままだと何も出来ないから。時間だけ過ぎて、何も取り戻せなくなるから」
「うーん・・・分かった。 5年、死ぬ気で頑張ってみろ。男の意地を見せてこい。それでダメなら、諦めてココに帰ってこい」
「ありがとう。頑張ってみるよ」
「それと、これからは盆と正月くらいは帰ってこい。ずっと母さん心配してたんだからな。福井に行くならこれからは母さんに心配かけるな」
「うん、分かった。約束する」
◇
教育実習も終わったので直ぐに大学に戻ると、教員採用試験の申し込みが5月末までだったので、急いで必要書類を揃えて申し込みを済ませた。
一次試験が7月の頭にあるので、それまで大学の勉強と並行して採用試験の対策も進めた。
7月に入ると一次試験を受ける為に再び福井まで行き、試験を終えると、イロハさんには会わずにそのまま帰り、今度は大学の前期試験対策を始めた。
7月の下旬、大学の前期試験の最中に、無事に一次試験に合格した通知が届いた。
直ぐに実家に電話して、母さんに報告すると『二次試験も頑張るのよ』と応援して貰えた。
前期試験も無事に終えて夏休みに入ると、直ぐに二次試験があるので再び福井へ行き、二次試験を受けた。
二次試験では個人面接があり、今まで大学の授業や実習の後にイロハさんと語り合った沢山のことを思い出しながら、聞かれた質問に答えた。
そして、この時もイロハさんに会わずにそのまま帰った。
残りの夏休みは、自動車免許の教習所に申し込んで、本屋のアルバイトと教習所に通う生活を続け、父さんとの約束通りお盆に一度帰省して、五日ほど実家に滞在して、直ぐに一人暮らしのアパートに戻って、アルバイトと教習所通いの生活を続けた。
そして、9月の末に、無事に内定の通知が来た。
この時は、「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!」と部屋で一人大声出して喜んだ。
直ぐに実家に報告すると、母さんも『良かったね。よく頑張ったね』と褒めてくれた。
そして、アルバイト先の本屋に行って、店長に就職内定の報告をして、その場にいた他の同僚に頼み込んで、その週のシフトを代わって貰った。
内定通知を受け取った翌日、朝5時に起きてシャワーを浴びて朝食を食べると、駅に向かった。
これから福井のイロハさんに、福井県での採用内定の報告をしに行く。
会って貰えないかもしれないけど、でも直接会って報告したかったから、ダメ元で会いに行く。
蜀の劉備玄徳は、不遇時代に諸葛孔明をスカウトする為に孔明と会えなくても3度訪ねたと言うし、僕だって
けど黙って会いに行くと、また『迷惑です』って言われそうなので、今度は移動中の電車で、『今日、イロハさんに会いに福井へ行きます。 お昼頃には着くと思いますので、良ければ会って下さい』とメッセージを送った。
既読は付いたけど、返事は無くて、『来ないで下さい』と返って来ないってことは、会ってくれる可能性があるってことかな?とポジティブに考えることにした。
前回イロハさんに会いに来た時と同じように、敦賀駅で乗り換えて同じ駅で降りて、バスに乗って目的地のバス停で降りた。
前回イロハさんの実家に来た時は2月の終わりでまだ寒かったけど、今回は暑くも寒くも無く丁度良い気候だった。
歩いてイロハさんの家に向かい、途中会う人に「こんにちは」と挨拶をしつつイロハさんの家に着くと、身嗜みを軽く整えて、1度深呼吸をしてからインターホンを押した。
家の中から「は~い」と声が聞こえてから、横引きの玄関扉が開いて、イロハさんが姿を見せた。
イロハさんは少し髪が伸びたのか、後ろで短く1つに括ってて、いつも掛けてた見慣れた眼鏡を掛けてて、そして、1年のクリスマスに僕がプレゼントしたオレンジ色のエプロンを身に着けていた。
あぁ
やっぱり可愛い
半年ぶりのイロハさん、相変わらず最高に可憐だ。
ってイカンイカン。見惚れてる場合じゃない。
今日は重要な目的があるんだ。
「お久しぶりです、イロハさん!今日は報告したいことがあって来ました!」
「・・・もうココには来ないで下さいって、言ったじゃないですか」
イロハさんは、真面目モードな時の表情でジッと僕を見つめながら、呆れた口調でそう言った。
でも、口調は呆れてても、前回と違って落ち着いている様に見える。
あの頃は、お母さんの手術が終わって自宅療養が始まったばかりだったし、大学の休学のこととかもあって、きっとイロハさんも心身共に余裕が無かったんだろう。
あれから半年以上経って、イロハさんも落ち着いてきたんだと思えた。
「直ぐに済みますので、少しだけ時間を下さい!お願いします!」
「・・・分かりました。 上がって下さい」
おぉ!?
今回は家に上げて貰えるのか!?
兎に角、落ち着こう。
お母さんだって自宅療養中で休んでいることだろうし、ご迷惑を掛けないようにしなくては。
座敷の部屋に通されて、「少し待ってて下さい」と言ってイロハさんが退出したので、背負っていたリュックを降ろして、中から内定通知が入った封筒を出して、正座してイロハさんが戻って来るのを待った。
直ぐにお盆を持ったイロハさんが戻って来て、僕の前に冷たいお茶が入ったグラスを置いてくれて、座卓を挟んで対面に正座で座った。
「それで、今日は何の御用なんですか?」
「はい。無事に福井県の教職採用試験に合格しましたので、その報告に来ました! これも全てイロハさんのお蔭です。ありがとうございました!」
封筒から内定通知を座卓に出して、スススっとイロハさんの前に提出してから話し始め、正座のまま頭を下げた。
顔を上げてイロハさんの表情を見ると、僕が出した内定通知を手に持って、いつもの2.8倍くらい目を見開いて驚いている。
「どうして・・・」
「頑張りましたから!イロハさんが居なくなっても一人で頑張りました!」
「そうじゃなくて、どうして福井なんかで!」
「イロハさんの傍に居るためです!」
「正気ですか!?私たちはもう恋人じゃないんですよ!?なのになんでこんなところに来るんですか!」
イロハさんは声を張り上げると、座卓をバンッ!と叩いた。
イロハさんが怒りだした。
コレは本気で怒ってる。
こんなに怒ったイロハさん、付き合ってた当時でも見たこと無くて、怖い。
けど
僕は腰抜けじゃないからな。
もう逃げたりしないんだからな。
見てろよ、メスゴリラ。
「イロハさんにフラれてから色々考えたんですけど・・・」
そして、大きく息を吸い込んでから、続けた。
「やっぱり好きです!瑞浪イロハさんのことが大好きです!僕と結婚して下さい!」
イロハさんの地元の話を聞いて以来、結婚のことは口にはしなかったけど、僕の気持ちはずっと前から決まってたんだ。
「えええ!?結婚!?」
「えええ!?結婚!?」
イロハさんが驚きの声を上げると同時に襖が開いて、そこに立っていた女性も同じように驚きの声を上げていた。
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