#44 2日ぶりの帰宅
実家から無事に帰って来て、自分の部屋に着いたのは夕方の5時頃だった。
直ぐにイロハさんに電話して、『今帰ってきましたよ。心配かけてごめんなさい』と報告すると、いまから会いに来ると言い出した。
まだ明るいとは言え、たった二日会ってないだけでこの時間に一人で来てもらうのは申し訳ないし、僕の二日酔いもだいぶ良くなって心配する程じゃないし、どちらかというと移動での疲れで今夜はゆっくりしたかったから丁重にお断りしようとしたけど、『顔見たらすぐ帰りますから』と言って、僕が断っても来ると言い張るので、『来てもらうのは申し訳ないから、僕が行きます。大人しく待っててください』と疲れた体にムチ打って、イロハさんのマンションに行くことにした。
イロハさん、ああ見えてすっごい頑固だからね。
一度言い出したら僕がいくら言っても聞かないし。
コロンブスはアメリカ大陸を死ぬまでインドだって言い張ったって、その話はもういいや。
マジで疲れてるから、このまま泊まらせて貰おうかな。
明日は授業あるから、大学に持ってく教科書とかノートも持ってくか。
旅行用カートの中身もまだ片付けてないのに、大学に行くときにいつも使ってるリュックに勉強道具と地元で買ってきたお土産入れて、自転車に乗ってイロハさんのマンションに向かった。
いつもの様に駐輪場に自転車停めて、玄関前でピンコーンとインターホンを鳴らすと、返事よりもさきに扉が開いて、有無も言わさず抱き着かれた。
「えぇ!?どうしちゃったの!?何かあったの???」
「心配だったんです。 それに凄く寂しくて・・・」
おおぅ、なんて健気で可愛いんだ。
最近はこんな姿はあまり見せてくれなかったから、愛おしくて疲れも吹き飛んじゃう。
やっぱり、無理して会いに来てよかった。
「ずっと毎日欠かさず会ってましたもんね。二日でも会わないと寂しくなっちゃったんですね」
「うん・・・」
イロハさんの頭を優しく撫でてあげると、イロハさんは顔を上げて潤んだ瞳で僕を見つめて来た。
キスして欲しいと甘えているサインだと直ぐに察知して、キスをしようとした瞬間、あることに気が付いた。
「イロハさん、髪切ったの!?」
僕がビックリして奇声をあげると、イロハさんは僕の声を無視して自分から背伸びしてキスしてきた。
驚きつつもキスに集中して舌を絡ませるけど、やっぱり髪のことが気になるので無理矢理唇を離した。
「髪の毛、どうしちゃったの!?バッサリ切っちゃってるじゃないの!」
イロハさんは出会った時からずっと髪が長くて、美容院でカットしても毛先整えて前髪揃えるくらいで、長い髪の三つ編みがトレードマークだった。
それが今は、肩にかかるくらいの長さのボブカットになってる。
「教育実習の面談があるので、カットしてきました。 変ですか?」
「いや、変じゃ無いけど、衝撃が強すぎて・・・」
「あ、こんな所でごめんなさい!上がって下さい! 夕飯はまだですか?直ぐに用意しますから」
「ええ、お邪魔します」
部屋に上がらせてもらい、キッチンで夕飯の準備を始めたイロハさんに「コレ、お土産です」と地元で買ってきたさくらんぼの洋菓子を渡して、シャワーを浴びたかったので、「帰ってからシャワーも浴びずに来ちゃったから、シャワー借りていいです?」と断ってから、一人でシャワーを浴びた。
シャワーを浴びながら、イロハさんが髪をバッサリ切ったことが頭から離れなくて、なんだか悶々としたままお風呂から出て、イロハさんが着替えを用意してくれてたのでそれに着替えて洗面所から出ると、お魚の干物を焼く臭いがしていた。
「シャワーありがとう。 今夜は干物ですか?美味しそうだね」
「はい。タイチくんのお部屋に行くつもりで何も用意してなかったので、有り合わせになっちゃいますけど」
「十分美味しそうだよ。いつもありがとうね」
「好きでやってることだから、気にしないで下さいね」
最近はイロハさんが料理をしてる時は、僕も一緒にお手伝いをしてるんだけど、この日は僕が手伝おうとすると、「タイチくんは疲れてるんですから、座って待っててください」と言って手伝わせて貰えなかった。
それで夕飯の準備も終わり、ローテーブルで二人並んで座って食事を始めると、改めて髪を切ったことについて聞いてみた。
「母校での面談に備えて切ったと言うのもあるんですけど、タイチくんが帰省する前日にお泊りした時に「タイチくんのお蔭で一人暮らしも寂しくなかった」とお話したじゃないですか。
それでたった二日間なのにタイチくんが帰省して離れ離れになったと思ったら、急に寂しくなってしまいまして、自分が思ってた以上にタイチくんに依存していたんだって分かって、こんなことでは面談どころか教育実習もやっていけないのでは無いかと不安で、気を引き締めようと今日のお昼に美容院へ行ってカットしてもらいました」
「うーん・・・」
依存してるって言われると、なんか複雑。
それに、その割には今日は無理にでも会いたがって、さっきもめっちゃ甘えてたし。
「やっぱり似合いませんか?」
「いえいえいえ、凄く似合ってて可愛いですよ。っていうか、可愛くて今まで以上にモテモテになったりしないか不安なんですけど」
「もう、またそういうこと言って。 私もタイチくんみたいに、竹刀を握って気合入れたり出来れば良かったんですけど、今の私にはコレくらいしか思いつかなくて。 でも、思い切って短くしてみたら、結構さっぱりしましたよ?」
直ぐ傍に座るイロハさんの頭に手を伸ばして、短くなった髪を触らせて貰うと、イロハさんは少し照れ臭そうに微笑んだ。
「うん、本当にさっぱりしたね。 これなら面談でもバッチリ好印象だよ」
「うふふ、そうだと良いんですけど」
「でもそっかぁ、来週はイロハさんが帰省しちゃうんだよね。ご実家の方は大丈夫なの?また、大学辞めて戻ってこいとか言われない?」
「母の話では一応は諦めてくれてるみたいです。 私が今まで以上に頑固で折れようとしないのに、父も根負けしたみたいですね」
「なら来週の帰省も、来月の教育実習もなんとか行けそうだね」
「はい。これもタイチくんのお蔭です」
「ご実家のことは、僕は何もしてないと思うけど」
「そうですね。そういうことにしておきます」うふふ
この日は僕の方が疲れていたのでエッチなことはせずに早めに寝て、翌日は朝から一緒に大学に行って講義にも出て、教育実習の受け入れを了承して貰えた報告や必要手続きなども済ませて、それらも終わるとそのままイロハさんのお部屋に帰り、金曜日だったのでそのまま日曜日の朝まで泊まらせて貰い、その間、珍しく沢山エッチして、日曜日は久しぶりに本屋のアルバイトに一日出勤した。
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