#45 期待をしてしまう
3年になって、運良く教職過程の必須科目も全て履修することが出来て、2年と同じ様に勉強中心の生活が続いた。
酒屋の方は相変わらず繁盛してて、配達業務は忙しかったけど、社長や奥さんからは「学生さんなんだから、勉強頑張って」と応援してもらえて、とても有難かったし、申し訳なかったので、平日でも時間に余裕がある日はお店に行って、配達は出来なくても倉庫の棚卸や搬入作業なんかの手伝いをさせて貰っていた。
それと、去年の夏頃から、タイチのお母さんやお姉さんのエリコさんがちょくちょく来店してくれるようになってて、たまに顔を会わせても挨拶する程度だけど、普通に接してくれるようになったのが嬉しかった。
ここで私がバイトしてたことは知らなくて偶然だったらしいけど、最初来た時に私を見て、私もビックリしたけどおばさんもかなりビックリした様子で、「チカちゃん、ココのお店で働いてたの!?元気そうで良かったぁ」って言ってくれて、私は仕事中なのにまた泣きそうになっちゃって、でもおばさんがニコニコとお店の奥さんとお喋りしてる様子に、何故だか凄くホッとさせられた。
それ以来、ちょくちょく来てるらしくて、私のことを気に掛けてくれてるらしい。
奥さんにはタイチとのことは話してないから、「坂本さんちの息子さんと同級生」程度の認識らしくて、おばさんやエリコさんが来ても一々私に教えたりはしないけど、たまに私が居る時に来店すると、私に声を掛けてくれるので、私もその度に挨拶をしてた。
ただ、おばさんからは「タイチもアルバイトしてるから、もうそろそろいいからね」と食料品を送ってることを言われてて、でも、そう言われて止めるのもなんか違う様に思えて、「もうしばらく続けさせてください」とお願いして、続けさせてもらっている。
それで、3年になり4月のGW直前の週末に、配達に行こうとしたら奥さんに「帰りに坂本さんちに寄って、空ビン回収して来て」と頼まれた。
奥さんが言うには、「この間息子さんが2年ぶりに帰省してたらしくて、ビールひとケース注文してくれたのよ。それでさっき空ビン引き取って欲しいって連絡があったからお願いね」と。
タイチ、帰省してたんだ。
まだこっちに居るのかな。
GW前の中途半端な時期だし、流石にもう居ないのかな。
凄く気になる。
しばらくタイチのことは考えないようにしてたけど、こうしてタイチの話を聞いてしまうと、どうしても気持ちがザワつく。
でも、考えても仕方ないし、兎に角、今は仕事だ。
予定通りお得意さんへの配達に周り、帰りにタイチの家に寄って、インターホンを押した。
「〇〇酒店ですけど、空ビンの回収に来ました」と名乗ると、玄関が開いて直ぐにエリコさんが応対してくれた。
「あれ? チカちゃんが来てくれたの?」
「はい、今日は配達だったんで」
「そうなんだ。ご苦労さまね」
そう言って、玄関の中にあるからと教えてくれたので、玄関の中に入らせてもらいケースごと持ち上げた。
玄関だけど、久しぶりにタイチの家に入った。
家の中の臭いが懐かしくて、どうしても昔のことを思い出してしまう。
ふと、玄関に並ぶ靴を見ると、タイチが履くような男物の靴は無かった。
私が靴を気にしてるのに気付いたのか、エリコさんから「タイチなら先週帰ってたけど2日で戻ったから今日は居ないよ」と教えてくれた。
「そうですか」
「チカちゃん、タイチに会いたいの?」
「そうですね・・・会えるものなら、ちゃんと謝りたいので」
「そっか。 また今度5月から1カ月くらい教育実習で帰省するのよ。 タイチ次第だけど、聞くだけ聞いてみようか?」
「本当ですか!?」
「うん、でも期待はしないでね。2年も経ってるって言っても、あいつだって色々あるし」
「はい、分かってます。 すみません、気を使ってくださって」
「いいのいいの。毎月色々送って貰ってるからね、そのお礼だと思って。 って、ビールケース持ったままでごめん!重いでしょ!?」
「大丈夫です。空ビンなのでこれくらいなら」
「すごいね・・・ホントにゴリラ並みじゃん」
「え?」
「ううん!なんでもないなんでもない!」
「じゃあ失礼します」
「は~い、ごくろうさまね」
タイチが来月も帰省する。
しかも1カ月。
教育大だと教育実習は3年にあるんだ。
私大のウチとは色々と違うのかな。
でも、もしかしたら会えるかもしれない。
ずっと諦めていた謝罪が出来るかもしれない。
別に、よりを戻したいとか仲直りしたいとか、そんなことはもう考えてない。
ただ、きちんと謝罪したい。
赦して貰えなくても、嫌われたままでも、5年の付き合いがあったのだから、ケジメとして謝罪をしたい。
だから、エリコさんからは「期待はしないで」と言われたけど、どうしても期待してしまう。
タイチにとって迷惑なのは承知してるけど、ずっと諦めてた謝罪が出来るかもしれないと思うと、期待せずにはいられなかった。
それからは、学校の講義中もGWの間のバイト中も、ずっと謝罪のことばかり考えてた。
どんな言葉で謝罪しようか。
どんな服装で行けばいいのか。
どこで会おうか。
会えると決まった訳じゃないのにそんなことばかり考えてたら、あっという間に5月の半ばになっていたので、毎月送っている食料品をタイチの家に届けた。
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