#43 2年ぶりの帰省
僕もイロハさんも小学校と中学校の教員資格取得を目指しているので、教育実習に2回行く必要がある。
そして、その1回目の教育実習は3年生の間に行かなくてはいけない。
それも、受け入れてくれる学校側の都合もあるので、通常は5~6月が多いらしい。 5~6月となると、4月の時点で受け入れ先の学校に相談して、アポ取って、事前に訪問して挨拶と面談をして、大学の方でもモロモロの手続きとか書類用意してうんたらかんたらと、兎に角実習期間だけでなく事前の準備もバタバタと忙しい。
それで、僕とイロハさんなんだけど、お互いの地元の母校で受けることにした。
3年時の教育実習は小学校になるので、母校の小学校に「平成〇〇年卒業の坂本タイチと申します」と名乗った上で、現在の在籍する大学と教育実習を受けさせて欲しい旨を相談すると、快く受け入れてくれる返事がもらえ、直ぐに面談の日程も決まった。
で、3年になって早々の4月に、実家に帰省することになった。
面談に備えて床屋で散髪したり、実習中に着る服をイロハさんと一緒に買いに行ったり、ゼミの教授のところに報告に行って心構えを教示してもらったり、3年の履修登録もイロハさんと相談して済ませて教科書を用意したりと、バタバタと忙しく4月は過ごした。
因みに、イロハさんも母校の小学校での実習の話は順調に進んでて面談の日まで決まってたけど、日程的には僕と入れ替わりの様な状況で、僕が先に帰省する。
丸2年地元には帰って無くて、ちょっぴりプレッシャーを感じてるのがイロハさんには分かったのか、帰省する前日には平日にも関わらず僕の部屋に泊まりに来てくれた。
いつもと同じようにイロハさんの手料理をご馳走になって、エッチもして、裸のまま抱き合って寝る時に、イロハさんが僕を元気づけようとしてくれたのか、話してくれた。
「タイチくんは2年間ずっと頑張って来たんです。傍でずっと見ていた私が保障します。だから、胸を張って故郷に帰って下さい」
「うん、ありがと。 でも、イロハさんが居てくれたから頑張れたんだけどね」
「それを言ったら、私もですよ。 タイチくんが居てくれたから、一人暮らしも寂しく無かったんですから」
「イロハさんは一人でも大丈夫でしょ?しっかり者だし料理とかも得意だし、僕居なくても大丈夫じゃない?」
「そんなことないですよ。
2年前のコチラに来たばかりの頃は、慣れない土地での初めての一人暮らしで、凄く不安で寂しくて。 でも入学式でタイチくんが声掛けてくれて、あの時に『お互い、大学生活がんばりましょうね!』って言って貰えて凄く励まされたんです。 私と同じ様に遠くから来て一人なのに、凄く明るくて前向きなタイチくんにどれだけ私は励まされて救われたか。
いつも前向きで明るいタイチくんの姿にずっと私は励まされて助けられてたんです。
だからタイチくんのことを尊敬してたし、大好きになったんですよ?」
「おぉぅ・・・まさかのイロハさんから愛の告白・・・そんなこと言われたら、行きたくなくなってくるんですけど」
「もう!私だって我慢してるんですから、しっかりして下さい」
「うん。 でも、もう1っ回いい?イロハさんの熱い愛の告白聞いたら、またしたくなっちゃった」
「明日早いんですから、我慢して寝てください」
「えぇ~ちょっとくらいいいでしょ?」モミモミ
「変なところ触らないで下さい!もう! ちょっとダケですよ?すぐ寝ますからね」
「らじゃ!」
◇
2年ぶりに地元への帰りの電車。
車窓から見える景色を眺めていると、流石に懐かしい気持ちがこみ上げて来た。
あの時は逃げる様に電車に飛び乗って人目を気にしてたから、窓の外の景色なんて見てる余裕は無かった。
でも今は、あの時とは違う。
逃げ出したくなるほどの惨めさはもう無い。
イロハさんにも言われたからね。
僕は胸を張ってていいんだよね。
地元の駅に到着してホームに降りると、駅や周りの様子は2年前と全然変わって無かった。
田舎だから、都会みたいに次々と新しい物が出来たりはしないんだよね。 なぜかそのことにホッとしつつ改札を出ると、姉ちゃんが迎えに来てくれてた。
2年ぶりに会う姉ちゃんは、髪型が変わったくらいで全然変わりなしだ。
「元気そうだね。っていうか、タイチ、ちょっと太った?」
「うん、まぁ、幸せ太り? 彼女の手料理が美味しいから」
「いきなり惚気かよ!なんかムカつくな」
「っていうか、ずっと電車で座りっぱなしでケツ痛いから、早く帰って休みたいんだけど」
「はいはい、表に車停めてあるからさっさと行くよ」
で、家に帰ると母ちゃんが居て、お土産の抹茶ドラ焼きを渡すと、何故かお説教から始まった。
やれ「ちゃんと勉強してるのか!」だの、「ちゃんとご飯食べてるのか!」だの、「2年も帰ってこないと心配するでしょ!」だのと。
勉強は真面目にしてたし、学年ごとの成績表だって実家に送付されてるから成績悪くないことも知ってるハズだし、イロハさんのことはちゃんと親にも話してあるからイロハさんの手料理のお蔭で栄養バランスのとれた食生活送れてるの知ってるハズだし、2年間帰ってこなかったのはごめんなさいだけど、そんなに怒らなくてもいいのに。
と思ったけど、自分の我儘で無理して県外の大学に行かせて貰ってて、心配を掛けてるのも事実なので、黙ってお説教を聞いておいた。
その日は、夜に父さんが帰ったら宴会するからと、母さんは台所で料理してて、姉ちゃんに「酒屋にビール買いに行くからついてこい」と言われて、姉ちゃんの車でお使いに出かけることになった。
その酒屋さんはチカの家の近所だったので、チカの家の前を通ったんだけど、チカの家を見ても特に以前の嫌な気持ちが蘇ったりはしなくて、全然平気だった。
「っていうか、わざとこの道通ってる?」
「ん?この道が一番近いだけだし、なんかまずかった?」
「別にまずくはないけど」
酒屋に着いて車を降りて店内に入ると、女性の店員さんが一人居て、姉ちゃんがその人に「電話した坂本ですけど~」って話し始めた。
手持無沙汰で店内をウロウロしてると、時折姉ちゃんと店員さんの会話が聞こえて、姉ちゃんは顔馴染の様子だった。
しばらくすると店員さんが台車に乗せたビールケースを運んでくれたので、台車のまま姉ちゃんの車まで運んで、ビールケースを持ち上げて車の後ろに積み込んだ。
「めっちゃ重いんですけど!?」
「だらしないなぁ。ココの若い店員さん、女の子なのに2ケースくらい軽々と持ち上げてたよ?」
「その人、人間じゃなくてゴリラなんじゃない!?」
「うわ、ひっど。こんどチクってやろ。タイチがゴリラだって言ってたって」
「いや、その人知らんし。その人だって僕のこと知らんし」
「それもそっか」
「なんなんだいったい。もう買う物ないならさっさと帰ろうって」
「はいはい」
その日の夜、家族4人でベロベロに酔っぱらうまでお酒を飲んだ。
僕が二十歳過ぎて初めての帰省だったから、成人のお祝いも兼ねてたみたいなものだったし、父さんも母さんもご機嫌に飲んでて、僕も調子にのってぶっ倒れるまで飲んで、次の日僕だけ酷い二日酔いになった。
小学校での面談は午後の予定なので、ゲエゲエ言いながら冷たいシャワーを浴びて二日酔いの薬も飲んで、イロハさんに『二日酔いで死にそう』ってメッセージ送ったら通話掛かって来て『大事な面談の日になにやってるんですか!』って怒られつつも、『ちゃんと身嗜み整えて、早めにお家出てくださいね』って励まされて、言われた通りに早めに母校の小学校へ訪問した。
約8年ぶりになるのかな。
小学生の頃は震災とかあって、色々と大変だった記憶がある。
って、体調最悪だし、あまりセンチメンタルになってる場合でも無いので、速やかに職員室を訪ねて教頭先生に挨拶して、具体的な日程とか教科とかの打ち合わせを済ませて、無事に教育実習の予定を組むことが出来た。
その日は二日酔いの影響が残ってて体調が悪かったので、夜は大人しく早めに寝て、翌日の朝には母さんに駅まで送って貰い、2年ぶりの帰省はあっという間に終わった。
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