#36 更に変わる二人の距離感





 初めて二人で迎えた朝は、なんだか変なことになっていたけど、でも、良い意味で二人の距離感が変わったことを実感した。

 付き合う前から特別仲良しだったけど、遠慮するラインがお互い低くなった感じ?

 今までなら遠慮したり嫌われるのが怖くて言えなかった言葉とか態度が出せるようになってたように思う。

 僕だけじゃなくて、イロハさんもね。


 思うに、今まで他人には話せなかったセックスに関する本音を吐露しあい、そして抱き合って寝たりキスをしたことで、恋人としての信頼関係が強固になったのを感じる。

 だから、遠慮が控えめになってきたんだろう。


 やっぱり恋人同士でも、話し合ったりスキンシップしたりと、コミュニケーションはとても重要なんだと思う。

 僕は、過去の失敗を思い浮かべて、改めてその想いを強く抱いた。




 もうお昼近いしこれからデートに出かけるので、朝食はインスタントの味噌汁と缶詰で済ませた。

 イロハさんも「たまには手を抜いても良いですよね」と言っていたので、「勿論。その分、初めてのデートだし準備に気合いれましょ」と僕が言うと、「らじゃ!」って僕の真似して敬礼していた。

 超ご機嫌だ。

 朝立ちを確認出来て、嬉しかったのかな。



 朝食を食べ終えてから洗濯物と掃除を済ませると、イロハさんはデートに着ていく服とメイク道具を持って、ユニットバスに立てこもった。

 因みに僕の方はイロハさんのリクエストで、入学式の時に着ていた一張羅のスーツだ。


 ずっとクローゼットの中に掛けっぱなしだったけど、デートに着ていく日が来るとは思わなかった。 合格祝いで買ってくれた父さんと母さんも、まさか僕がデートに着ていくとは思って無かっただろう。


 紺のスーツに水色のシャツで緑と黄の縞々のネクタイを締めてみたけど、クローゼットの鏡に映る姿はなんというか、我ながらスーツが似合わん。

 田舎者まる出しだね。


 まぁいいか。

 田舎者なのは本当だし。


 あ、鼻毛伸びてる。

 イロハさん、まだ時間かかりそうだし、今の内に切っとこう。

 って、一緒に寝てた時もキスした時も、鼻毛伸びてたのか!?

 イロハさん、気付いてたのか!?


 あぁ、そういえばイロハさん、眼鏡掛けてなかったから、見えてないか。

 マジ助かった。

 今後は鼻毛のチェックも細目こまめにしなくては。



 と、鼻毛の手入れが終わったタイミングで、ピンコーンとインターホンが鳴った。

 応答に出ると宅配便だったので玄関開けて受け取ると、いつもの実家からの食料品だった。


 最近、特にイロハさんとお付き合いするようになってからは、イロハさんのお部屋でご馳走して貰うことが増えてて、実家から送って貰ってる食料品は余らせ気味で、実家にも減らすように言ってあったけど、結局今月もいつもと同じようにダンボールひと箱分送ってくれた。


 洗面所のイロハさんに声を掛けると、準備にもう少し時間が掛かりそうなので、ダンボールを開けて中身を確認することにした。


 今回は年末だからなのか、お餅とかお蕎麦なんかも入っていた。

 昨日、カニ鍋用に昆布とかかつお節を買ってたから、年越し蕎麦とかお雑煮が作れそうだ。

 そうだ、イロハさんにお願いして、福井風のお雑煮を作って貰うのも良いかもしれないね。


 直ぐに実家に電話して、無事に荷物が届いたこととお礼を伝えると、そろそろ帰省したらどうだって言われた。


 正直言うとさ、今が幸せなお蔭か、もう地元のことはあまり気にしてないんだよね。

 地元というか、チカのことか。

 流石に顔会わすのは今も嫌だけど、もう吹っ切れたとは思ってる。

 むしろ、地元のことよりもイロハさんと離れたくないんだよね。イロハさんも帰省せずにコッチに居るんだから、僕もコッチでイロハさんと一緒に居たいんだよね。

 でも正直にそれ言うと母さんに怒られそうだから、まだ引きづってるていで、『まだちょっと地元はキツイ』って誤魔化しといた。


 と、母さんと電話してたらいつの間にかイロハさんが準備を終えて出て来てた。

 直ぐに『また電話するね』と言って通話を切ってイロハさんに向き直ると、「お待たせしてすみませんでした」と言うので、僕も「いま実家から荷物届いて、お礼の電話してたとこでした」と返しつつ、イロハさんの全身を確認するように眺めた。



 体にフィットした小豆色のニットのトップスにギンガムチェックのハイウエストのミニスカートで、黒いタイツに包まれた脚が膝上まで見えてる。

 そして、髪は下ろしてて、前髪をヘアピンで留めてるだけなんだけど、コンタクトでメイクもバッチリで、色白の肌に明るめのピンクのグロスの唇がぷっくりしてるのが特に印象的。

 クリスマスの時よりも、更にパワーアップしてないか?

 凄い綺麗なんですけど。

 僕の彼女、滅茶苦茶美人なんですけど!?



「凄い・・・凄い綺麗・・・」


「もう!またそんな風に揶揄って」モジモジ


「いやいやいやいや!全然揶揄ってないですよ!滅茶苦茶気合入ってるじゃないですか!確かに準備に気合いれましょって言ったけど、予想の遥か上ですよ!」


「うう、タイチくん、褒めすぎです・・・でも、ありがとうございます」


「冗談抜きで、ウチの大学で一番じゃないかな?学祭のミスコンとか出たら優勝出来るんじゃないですか?今年出れば良かったのに」


「もう!やっぱり揶揄ってる!」


「だから揶揄ってないと何度も。大真面目に感動してるんですよ」


 所謂『メイクで化けた』ってことだとは思うけど、本当に凄く綺麗だ。感動するレベル。


「実は、タイチくんとお付き合い始めてから、白川さんと飛騨さんと、あと郡上さんにメイクのやり方とか覚えたいって相談してたんです。それでみんな協力してくれて、タイチくんがアルバイトの日とかにウチに来てくれて色々教わって何とか出来るようになれたんです。 まだ時間が掛かるからお待たせしちゃいましたけど、そんなに喜んでくれたのなら、お勉強した甲斐がありました」うふふ


 白川さんや飛騨さんと郡上さんというのは、大学で良く一緒に講義受けたり食事したりする友達の中でも女性陣の3人だ。 僕も実際に白川さんにはイロハさんのことで相談したことある。

 学校始まったら僕からもお礼言わなくては。


「タイチくんもスーツ姿、素敵ですよ?」


 僕が、感動しながらイロハさんを舐める様に見つめていると、イロハさんは照れ臭そうにそう言いながら、僕のネクタイに手を伸ばして、結び目の位置を直してくれた。


「あ!写真撮らせて下さい!タイチくんのスーツ姿、折角の入学式以来なんですから!」


 イロハさんはそう言うとスマホを取り出したので、僕も「じゃあ僕も!」とスマホを取り出してイロハさんを写そうと構えると、イロハさんに「ダメです!ちゃんと立ってて下さい!今、私が写してるんですから!」と怒られた。


 イロハさんが散々僕を写して満足すると、ようやく僕にも撮影させてくれて、最後に自撮りでツーショットを何枚も撮影した。

 写した画像を確認したけど、やっぱりどのイロハさんも凄く綺麗に写ってて、誰かに自慢したくなっちゃって、姉ちゃんに『僕の彼女!ちょー美人でしょ?』とツーショットの写メ添付して送信しといた。



 出かける前からお互いはしゃぎすぎてしまったけど、デートするのが今日のメインイベントなので、コート羽織って、僕はイロハさんから貰ったマフラーも巻いて出かけることに。


 玄関から出る前に急に思い出して、「出かける前に、キスしてもいい?」と確認すると、イロハさんは少しビクッってビックリしたみたいに背筋伸ばしたけど、ジーっと僕を見つめると目を閉じてキスをしやすい様に少し顎を上げてくれたので、ほっぺに右手を添えて軽くキスした。


 まだイロハさんは緊張してる様だけど、僕のキスを受け入れてくれた。 それが嬉しくて、調子に乗って何度もキスしてたら、「もうお終いです!」って怒られた。

 

 オシャレやメイクしてどんなに美人に変貌してても、「口紅が付いちゃってるじゃないですか!もう!」ってぷりぷり怒りながら、自分のバッグからティッシュを出して、僕の口周りを拭きとってくれるイロハさんは、普段と全く変わらない面倒見の良い、素敵な女の子のままだった。






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