#35 初めてお泊りした翌朝



 イロハさんが初めて僕の部屋に泊まった翌朝。



 目が覚めると、イロハさんは僕の腕の中でスヤスヤと眠っていた。

 長い髪で隠れて寝顔が見えなかったので、起こさないようにそっと髪を掻き分けて、気持ちよさそうに眠る寝顔を覗き込んで、重大な失態に気が付いた。


 昨日はイロハさんの誕生日だったのに、カニ鍋したくらいでまともにお祝いしていない。

 夜遅くまで色々語り合ってたんだけど、男性器の勃起や射精のメカニズムに関しての質疑応答に盛り上がってしまい、イロハさんの誕生日だったことを失念したまま、「そろそろ眠くなりました」と言うので、そのまま寝てしまった。


 あ、一応、初めての一緒に過ごす夜だったので、セックスへの道の第一歩として、1つの布団に一緒に入って抱き合う様にして腕枕で寝たのよ。

 僕の方は、セックスにはまだ抵抗があるけど、スキンシップとかキスとかは特に問題は無くて、むしろイロハさんと一緒に寝るのは、イロハさんの香りと安心感に包まれてて心が満たされた。

 ただ、イロハさんの方はかなり緊張してたみたいで、「恥ずかしくてタイチくんの顔が見れないです」って言って、ずっとそっぽ向いてたけどね。

 でも、そういうとこから慣れるのが今の僕達には必要だから、今後も続けて慣れていくべきだと思う。



 って、イロハさんの誕生日だ。


 どうしよう。

 もう朝で日付変わってるし、1日遅れでも許してくれるかな。

 とりあえず、デートにでも連れ出そう。


 左腕にイロハさんの頭が乗っかってるので、その辺に置きっぱなしになってたスマホを右手でなんとか探し当てて、美味しいモンブランが食べられるケーキ屋さんやカフェが無いか、探し始めた。


 3つ程、美味しそうで評判も良さげなお店をピックアップすると、いつの間にかイロハさんは目を覚まして、じっと僕の顔を無言で見つめていた。


 それに気づいて慌てて「おはよう、イロハさん。寝づらく無かったですか?良く寝れました?」と尋ねると、無言でガバっと抱き着かれた。


「夢じゃないんですね」


「ええ、多分。 現実のようです」


「こんなにも幸せな気分で目が覚めたのは、初めてです。 実家を出てからずっと一人だったし、寂しいのにも慣れたと思ってましたが、こんなにも幸せな朝があることを初めて知りました」


 イロハさんは、相変わらず真面目に話してくれてるけど、なんだか物凄く実感がこもってたし、一人暮らしで寂しく思うことがあるのは僕も同じなので、イロハさんが普段寂しい思いをしてた事は痛い程理解できて、だから労りたくて、左手でイロハさんの体を優しく抱きしめ返して、持ってたスマホを離した右手で頭を何度も撫でていた。


「ところでイロハさん。 一日遅れで申し訳ないんですけど、誕生日のお祝いにデートに出かけませんか?モンブランが有名なお店をいくつかピックアップしてみたんで、後で見て貰えませんか?」


 イロハさんの頭を撫でながらデートの提案をすると、イロハさんは顔を上げて、至近距離から僕を見つめてきた。

 眼鏡もコンタクトもしてないから、多分、僕の顔はぼやけているのだろう。

 何を思ってるかは表情から読み取れないけど、吐息がすぐ届く距離からじっと僕を見つめている。


 ああ、やっぱり可愛い。

 愛おしくなるほど可愛い。

 キスしたくなってきた。


 しても良いよね?

 恋人だしね。

 一緒のお布団で寝たくらいだしね。



 僕は、イロハさんが何か言う前に、スっと軽く唇にキスをした。

 唇から離れると、イロハさんは目を瞑って顔も体もリキんでいた。


 その様子がちょっと面白くて、もう一度キスしてみた。


 2度目のキスをすると、イロハさんは「んんん!」と口を閉じたままよく分からない声で何かを訴えていた。


「それで、デートの方はどうです?お金なら全部僕が出しますんで」


「急だと困ります!私にも心の準備をさせてください!」


「だから、今事前に聞いてるんですけど?」


「デートの話じゃなくて! き、キスの話です!ファーストキスだったんですよ!!!」


「じゃあ、もう一回やり直しましょうか」


 今度は事前に予告してから、ぷりぷり怒ってるイロハさんの唇にキスして黙らせた。

 けど、今度は直ぐに逃げられた。

 3度目ともなると、流石に慣れて来たのだろうか。


「は、はは恥ずかしいからもうイイです!」


「それでデートの話は・・・」


「デートは勿論行きます!」


「隙あり」


「んんんん! だからキスはもうイイって言ってるじゃないですか!タイチくん本当にイジワルですよ!」



 朝から滅茶苦茶楽しい。

 イロハさんとイチャイチャ、最高に楽しい。


 だけど、イロハさんを抱きしめたままケラケラ笑っていると、イロハさんは目を細めて低いトーンの早口で反撃に出た。



「ところでタイチくん。朝立ちでしたっけ?男性は朝起きると意思に反して朝立ちと言う状態になるんでしたよね?どうなんですか?今、朝立ちしてるんですか?」


「な、なんですと!?」


 イロハさんは少しニラむように、朝立ちを追求し始めた。

 どうやら揶揄い過ぎたせいで怒らせてしまったようだ。


「昨日教えてくれたじゃないですか、男性器のメカニズムを!どうなんですか!朝立ちしてるんですか!ヒジョーに!キョーミがあるんですけど!朝立ち!」


 イロハさんが僕に抱きしめられながら『朝立ち』と連呼している。

 凄い時代になったものだ。

 人類で初めて月面に降り立った人が月から見える地球を見上げて、人生観が変わるほどの感動をしたらしいけど、こんな感じだったのだろうか。

 いや、それは流石に大げさすぎるか。


「ちょっとだけ・・・」


「ちょっとと言うのは具体的にどうちょっとなんですか?キチンと説明して頂かないと分かりません」


「え?説明しないとダメ?」


「はい。コレも勉強ですからね!」


「じゃあ、実際に、見ます?朝立ちしたおちんちん」


「はぁ!?ナニを言ってるんですか!朝からナニを言ってるんですか!見せたいんですか!?アナタはナニを言ってるんですか!」


「いや、朝立ちのこと言い出したの、イロハさんなんですけど」



 流石にまる出しにするのは僕の方が恥ずかしいので、布団をめくって寝間着代わりのジャージのまま股間のテントを見せると、イロハさんは眼鏡を掛けてしっかりと確認していた。

 本当に興味あったんだね。

 勉強熱心だなぁ。


「ど、どどどれくらい硬いものなのか、確かめてみても・・・?」


「触ってみます?」


 イロハさんは唾をゴクリと飲み込む仕草をすると、恐る恐る左手の人差し指を伸ばして、テントの先端をツンと触った。


 すると、イロハさんは普段の1.5倍くらい目を見開いた。


「ホ、ホントに硬いです!タイチくん硬いですよ!?」


「そんなにハッキリ言われると、凄く恥ずかしいんですけど」



 エッチなことをしてるはずなのに、イロハさんの反応のお蔭か全然そんな空気にならなくて、不安とかプレッシャーは全く感じなかった。

 もし、イロハさんが気を使ってそうしてくれてるのなら、やっぱりイロハさんは凄い人だと思うけど、これに関しては、ただの天然の気がする。




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