#30 二人で過ごすクリスマス




 ウチの大学は、年末の28日まで授業があるのでイヴもクリスマスも学校だ。 そして、アルバイト先の店長から頼まれてイヴの日にシフトに入ったので、クリスマスは休みを貰えた。


 なので、25日の朝、学校へ行く前にイロハさんんちにお迎えに行った時に、クリスマスのプレゼントを渡すことにしていた。


 プレゼントは一人で買いに行って、雑貨屋さんで散々悩んでエプロンと栞の2つにした。

 1つに絞れなかったの。


 エプロンは、オレンジ色一色でひらひらが付いたシンプルなデザインだけど、可愛いと思ったものを選んだ。

 栞は、寄木細工のちょっと変わったデザインで、オシャレな感じのを選んだ。

 2つ合わせても5000円くらい。もっと値の張るアクセサリーとかも考えたけど、イロハさんの好みやイメージに合う物が分からなかったので、イロハさんが使ってくれそうな物を考えて選んだ。


 好みに合うかな。

 喜んでくれるかな。

 使ってくれると良いんだけど。


 お店で選んだ時は、『イロハさんならきっと喜んでくれる!』って思ったけど、渡す直前になって心配になってきた。


 まぁいっか。

 要らないって言われたら、引き取って自分で使おう。

 イロハさんがそんなこと言うわけない、とは思うけど。





 流石にクリスマスになると、この地域でも朝は寒くて吐く息も白い。

 イロハさんの部屋の玄関扉の前に立つと、いつものようにピンコーンとインターホンを押した。

『は~い』と返事が聞こえたあと扉が開くと、イロハさんが出迎えてくれた。



「おはよう!イロハさん!」


「おはようございます、タイチくん。寒かったでしょ?コーヒー煎れるから上がって下さい」


 寒いので素早く中へ入り扉を閉めると、靴を脱ぐ前にリュックから緑と赤のリボンが付いたプレゼントの包を取り出して、イロハさんに差し出した。


「メリ~クリスマス!これ、クリスマスプレゼントです!」


「え、私に???」


「勿論!」


「貰って良いのかな?」


「こんなものじゃ全然お礼にならないけど、いつもいつもお世話になってたから、何かお礼がしたくて」


「ありがとうございます。  とっても嬉しいです」


 イロハさんはテレ臭そうにしながらも、笑顔で受け取ってくれた。


「もし気に入らなかったら、返品可なので」


「もう!そんなことしませんよ!大切にしますから!」


 イロハさんは受け取った僕からのプレゼントを両手で胸に抱きしめる様にして、いつもの様にぷりぷりと怒った。

 怒ったイロハさんも、やっぱり可愛い。


「暖房効いてるから、上がって下さい」


「らじゃ!」



 部屋に上がり、いつもの定位置に腰を降ろすと、イロハさんは目の前のローテーブルに僕が渡したプレゼントを置いて、コーヒーを煎れる為にキッチンへ行った。


 まだ開けて貰えないプレゼントの包を眺めながら、「学校に行く前に開けてくれると良いんだけど」とちょっぴり不安になっていると、マグカップ2つと緑色の包を乗せたお盆を持ってイロハさんが戻って来た。


 マグカップをそれぞれテーブルに置くと、イロハさんは包を持って僕の隣に腰を降ろした。



「私も用意したんですけど、気に入って貰えるか不安で・・・」


「え!?僕にも!?」


「うん。 男の人に贈るプレゼントなんて初めてだから、凄く悩んで、結局ありきたりの物しか選べなかったんですけど・・・」


「ありがとう!すっごく嬉しい!」


「でも、本当に普通の物だから」


「開けていい?」


「うん。 あ、私も開けますね?」


「うん、一緒に開けて見よう」



 慎重にテープを剥がして包を開くと、オレンジと白色のチェック柄のマフラーだった。


「おぉ、マフラーだ」


 広げて見ると、男性用なのか結構大きなサイズで、温かそうだ。


「エプロン、凄く可愛いです。 あれ?もう1つ包?」


「うん。そっちも開けて見て」


「あ、寄木細工の栞・・・」


「うん。なんかオシャレで、イロハさんに使って欲しいなぁって思って」


「・・・」


 イロハさんの反応が気になって、貰ったマフラーを首に巻いて表情を窺っていると、イロハさんは栞とエプロンを見つめながら固まってしまった。


「いまいちだった?」


 心配になって尋ねると、首を横にブンブン振ってる。


「そっか、良かった良かった」


 嫌なわけじゃなさそうなので、ひと安心してマフラーを首に巻いたままテーブルのマグカップに手を伸ばすと、その手をイロハさんにガッチリ掴まれて両手で握られた。


「え!?どしたの!?」


 ビックリしてイロハさんに向き直すと、イロハさんは僕の手を握ったまま真っすぐ見つめて、興奮気味に早口で捲し立て始めた。


「ありがとうございます!凄く素敵です!高かったんじゃないですか?私も前に雑貨屋さんで見つけて買おうかどうか悩んだんですけど、値段見て諦めてたんです!栞で2000円は高いですよね?だから諦めてたのに、凄く凄く嬉しいです!ありがとうございますね!大切に使わせて頂きますね!」


「そ、そう。そんなに気に入って貰えるとは思って無かったから、僕も嬉しいです」


 まさか、イロハさんがこんなマイナーなアイテムを欲しかったとは、知らずにピンポイントで正解を当ててしまうとは、凄いな僕。

 これも、愛の力?


「はい!エプロンも大切に使わせて頂きますね!」


「うん。僕もマフラー、今日から使わせて貰うね。ありがとうね」


「あ、色とかどうでした?少し派手かなって思いましたけど、タイチくんのイメージで選んでみたんです」


「そっか、僕のイメージ、オレンジなんだ。 っていうか、僕が選んだエプロンもオレンジだったね? 僕もイロハさんに似合いそうな色だと思ったんだけど、一緒だったね」


「はい、一緒でしたね」うふふ




 この後、いつもの様に手を繋いで大学へ行き、一緒に講義に出て、お昼は他の友達も交えて学食で食べて、午後の講義も一緒に出て、この日の講義を全部終えると、一緒に大学を出て手を繋いで歩いて近所のスーパーへ行き、買い物を終えてからイロハさんの部屋に戻って来た。


 部屋に上がると、手洗いとうがいを済ませて、夕飯の準備を始めた。

 この日の調理は僕も手伝った。

 メニューは、クリームシチューとチキンのもも肉の照り焼き。


 イロハさんは、早速僕がプレゼントしたオレンジ色のエプロンを身に着けたので、普段イロハさんが使ってたエプロンを貸して貰った。


 包丁を使ってジャガイモの皮剥きをしていると、「タイチくん、料理苦手だって言ってたけど、綺麗に皮剥き出来てて包丁使うの上手ですよ?」と褒めてくれた。


「そうかな?一人暮らし始めてからカレーばっかり何回も作ってたからね。慣れて来たんだね」


「一人暮らししてると、今まで苦手だったことも色々出来るようになりますよね。私もお掃除とかアイロンがけが苦手でしたけど、今は少しだけ得意になりました」


「イロハさんでも苦手なことあるの?全然そんな風に見えないのに」


「そうですよ? あ、今度タイチくんの部屋にお掃除しに行きましょうか?タイチくんの部屋、あまり掃除してないでしょ?」


「いやいやいや、掃除くらい自分でしますって」


「そうだ。今度の冬休みは私の部屋ばかりじゃなくて、タイチくんのお部屋で過ごしませんか?お掃除お手伝いしますんで、それで大晦日は年越し蕎麦を一緒に食べませんか?」


 大晦日にイロハさんと二人。


 ジャガイモの皮剥きの手を止めて隣に立つイロハさんへ視線を向けると、イロハさんは真っすぐと僕を見上げて「ん?」って顔をしていた。



「うん。冬休みも大晦日も一緒に過ごしましょう。 去年は受験勉強でお正月どころじゃなかったし、去年の分も楽しく過ごしたいです」


「はい!じゃあ今度は私がタイチくんのお部屋に行きますね」


「うん。楽しみにしてます」



 クリスマスと大晦日。

 去年は実家で一人部屋に篭って勉強しかしてなかった。

 でも今年は、イロハさんのお蔭で楽しい時間が過ごせそうだ。






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