#27 懺悔はスウィーツと共に

 



 エリコさんがここまで知っていると分ると、覚悟が出来た。

 この場で懺悔する。


 私は1度深呼吸をしてから、話し始めた。



「浮気をしたのは、大した理由はありません。 ただ、浮ついてました」


「うん」


「タイチのことは好きでした。別れたいとは一度も思った事ありません。 でも優先しなくなってたことは事実です」


「1年の時は、放課後とかもタイチの部活が終わるまで毎日待ってたくらいで、でも2年で別々のクラスになってから、クラスの友達に放課後遊びに誘われる様になって、少しづつタイチよりも友達を優先するようになってました。 最初はその度にタイチに申し訳ないと思って「ごめんね」って謝ってて、タイチも「部活終わるまで待たせてたのも悪いから、気にしないで」って言ってくれて、それが徐々に当たり前の様になってました」


「それで2年の間は友達たちと遊んでばかりで、タイチには申し訳ないと思ってたまに二人で過ごす時間つくってて、クリスマスは一緒に過すこと出来たけど、年明けてからクラスの男子に遊びに誘われてて、『タイチとはクリスマスに一緒に過したし、冬休みは少しくらいいいよね』って自分に言い訳して、その男子と会いました」


「その男子と二人きりで初めて会った日は、最初はゲームセンターとかカラオケに行って遊んでて、夜になってご飯食べた後にそろそろ帰ろうかと思ったら、ホテルに誘われました」


「最初は断りましたけど、『変なことしないし社会勉強にラブホの見学しよう』って言われて、その場のノリで誘いに乗りました」


「部屋に入ると、その男子は必死に私を説得しようとし始めました。 それを見てて『そんなに私とセックスがしたいんだ』って思ったら、優越感を感じてました。それは、タイチと居る時には感じなかったものでした。チヤホヤされて嬉しかったんです。 それで結局『1度だけ』とセックスしました」


「それからその男子とは1度で終わらず1年続きました。2年のバレンタインもタイチの部活の引退試合も、その男子を優先した結果でした。お盆休みにエリコさんが見かけたというのもその男子で間違いないです」


「それで、今年の1月に「もう止める」と私から関係を切りました。元々恋愛感情は無かったし優越感を満たすだけの存在で、タイチと一緒の大学に入るまでの期間限定の火遊びくらいの感覚でした。 なので、高校卒業前に切ることにしました。 でも、全部が手遅れでした」


「タイチのことはずっと好きでした。 ただ、タイチが私を好きでいてくれることを当たり前に思う様になってました。私がどんなに遊び惚けてても、タイチは私の為に受験勉強を頑張ってくれてて、ずっと私と一緒に居てくれると思い込んでました。そう自惚うぬぼれてタイチに目を向けずに、他のことばかり見てました」


「タイチにフラれてから、色々なことにようやく気付けました。 フラれるまで全然気づけませんでした。今は後悔ばかりです。 だから、もう後悔はしたくないので、これ以上タイチに迷惑をかける様なことはしません。 タイチに2度と顔向けできないこともしません」



 私がこれまでのことの懺悔を終えると、エリコさんもパンケーキを食べ終えて、ナイフとフォークを置いて、おしぼりで口を拭った。



「だいたい分った。 チカちゃんってキツイとこあるから、あんまり男にチヤホヤされたことないんでしょ? それで、男に甘えられるとほだされ易いんじゃないの?」


「そうですね・・・。そうだったと思います」


「タイチはあんまり甘えたりしそうにないもんね。 後は、タイチに劣等感でも感じてたのかな」


 タイチに、劣等感?


「まぁそんなことだろうなとは思ってたけど、概ね想像通りだったね」


「はい・・・」



 エリコさんは、私の話を聞いても、怒りもせずに相変わらずニコニコしている。昔から凄くマイペースな人だったけど、今日は、あくまで自分は部外者で他人だと線引きしているのかもしれない。


「私のこと、怒らないんですか?」


「ん~、タイチがもう怒ってないのに私が今更怒るのもなんか違うしね。

 あ!私だけ先に食べちゃってごめん!目の前に置かれたら我慢出来ずに食べちゃったよ! ほら!チカちゃんも食べて食べて!」


「あ、はい」



 自分の罪を懺悔した直後のこの場所でスウィーツを食べるのは、甘い物が好きな私でも、この時ほど美味しく感じなかったのは初めて。

 やっぱり甘い物は、幸せも味わいながら食べないとダメだと思う。




 でも、ちゃんと話すことが出来た。

 罪悪感で泣いてしまうかと思ってたけど、最後まで泣かずに話せた。


 もしかしたらエリコさんは、私の緊張感と罪悪感を解す為にワザと目の前で美味しそうにパンケーキを食べながら私の話を聞いてくれてたのかも。

 流石にそれは考えすぎかな。




 結局、支払いは全てエリコさんが払ってくれた。


 一緒の電車に乗って地元の駅で降りて、別れ際に「今日はご馳走様でした」とお礼を言うと、エリコさんは「チカちゃん、ドンマイだよ!」と言って、最後までマイペースで帰って行った。



 赦されたわけじゃないけど、エリコさんに聞いて貰ったことで、少しだけスッキリした。

 私はずっと誰かに聞いて貰いたかったんだ。

 タイチの絶望を身をもって知った時から、自分の罪を。



 お蔭で、『私はまだ一人でも頑張れる』

 と、ほんの少しだけ前向きになることが出来た。




 _________


 まだまだ続きます。


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