#25 お姉さんは見てた



「まぁソレはソレとして。

 去年の夏。お盆休みの最中に、チカちゃんを見かけたの」



 私が泣きそうなのを堪えていると、エリコさんは話しを続けた。

 コレが本題だと直ぐに分かった。


 見上げてた顔を下げ、エリコさんへ向き直した。



「〇〇駅の東口から出た先のコンビニに私居たの。 お店から出た所で偶然チカちゃんが歩いてるの見かけてね。今日みたいに声掛けようとしたんだよね」


「・・・」


「でも、タイチじゃない男と歩いてたの。なんか二人の距離近いし、ただの友達には見えなくてさ。タイチと付き合ってること知らない人が見たら、普通に恋人同士って見えるぐらいにね」


「はい・・・」


「それに、あの辺ってさ、飲み屋街でしょ?普通なら高校生があまり近寄らないんだよね。しかも二人が歩いて行く方向って、ホテルとかいくつか並んでるじゃん。普通のホテルじゃなくて、ラブホね」


「・・・」


 今度は顔を上げていられなくなった。


「それで感が働いてね。跡付けたの。 で、ドンピシャだった。

 でも、その時はタイチはチカちゃんのこと信じ切ってるって思ってたから、口で言っても信用しないだろうと思って、ラブホの前で張り込んで出て来るとこスマホで写して証拠抑えたの。 待つのも大変だったよ?通行人にジロジロ見られるし、2時間きっかり楽しんでるんだもん」



 恥ずかしくて情けなくて消えて無くなりたい。



「家に帰ってさ、タイチに伝えるんだけど、結構しんどかったよ。タイチが傷付くの分かってて、でも伝えない訳にもいかないでしょ? お医者さんが患者さんに余命宣告する心境? ってそんな例えはどうでもいいよね」



 顔を上げることが出来ずに、いつの間にかテーブルに置かれてたパンケーキの1点を見つめ続けて、ただただ黙って話を聞いていた。



「タイチに『チカちゃんが男とラブホ入ってくの目撃した』って言ったらさ、絶句して凄いショック受けてたんだけどね、証拠の写メ見せたら『そっか。最近の態度や行動に全部合点がいった』って言い出したの。タイチなりに何か感じてたみたいね。 詳しく聞くと、2年の3学期頃から素っ気なく感じてたって。

 最初はお正月明けに会った時に余所余所しく感じたんだって。でもその時は気にして無かったけど、バレンタインに学校でチョコ貰った時に「一緒に帰ろう」って誘ったら断られたんだって。憶えてる?2年のバレンタイン。チカちゃんに貰ったチョコ持って一人で帰って来たんだって。

 他にも部活の引退試合とかもドタキャンしたんだって? それで部活引退して漸くチカちゃんとの時間を取れるようになったと思ったのに、チカちゃんは相変わらず友達優先で二人で帰るのはたまにしか無かったって」


「それに、3年でチカちゃんのが成績落ちててタイチは心配だったんだって。だから夏休みに「一緒に勉強しよう」って何度も誘ったけど、全然聞いて貰えなくて、ウザがられてるように感じて、もう声掛けたら逆効果だと思って声も掛けられなくなってたみたいよ。 その頃タイチからあんまり連絡なかったでしょ?気を遣って遠慮してたみたいね」


「・・・」


「それで一人で悩んでた時に私の話聞いて、『全部合点がいった』ってことだったみたいね」



 サトシと最初に二人きりで会ったのは、2年の冬休み。

 タイチが違和感を最初に感じたと言うのもその時期。


 タイチ、最初から私の変化に気付いてたんだ。

 私はタイチの変化に全然気づいて無かったのに、タイチは私をずっと見てくれてたんだ。

 部活や勉強で忙しかったのに、ちゃんと私を。



「どう?こうして改めて聞くと、酷い話だよね?」


「はい。 酷い話です」


「それでさ、今更だし私は部外者だけど、どうしても1つだけ聞きたいの」


「はい」


「なんで浮気したの? なんでタイチと別れずに浮気してたの?

 あ、別に理由知って非難するつもりじゃないから、純粋な疑問。

 さっきも言ったけど、今のチカちゃんが反省しようが開き直ろうが興味無いし、既に別れてる今のチカちゃんを責める気持ちも無いから。ただ純粋な疑問。今日の話はタイチにも話さないから、出来れば聞かせて欲しいの」


「はい」


 

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