#24 友達は知ってた




 アルバイト先の先輩である岡崎さんに指摘されてから、グダグダ悩んでいる間に気付けば11月も終わりが近づいていた。



 何を悩んでいるかと言えば、『イロハさんは本当に僕のことが好きなのだろうか?』

 もしそれが本当なら、イロハさんが公私共に僕の面倒みてくれてたのは、その気持ちをアピールしてたのかもしれない。


 なのに僕は、のほほんと気づかずに『友達だから遠慮はなしだよ』とただ甘えていた。

 当然、友達と言えども、その都度その都度お礼を言ってたし、出来る範囲でお返しもしてた。


 本当にただの友達なら、それでも良かったと思う。

 お互い納得した上でのことなら。


 でも、本心では、僕のことを恋愛対象として見てて甲斐甲斐しく世話をしてくれてたのなら、それに対して相応の対応が必要だったと思う。

 お礼にデートするとか、スキンシップするとか、それこそ、キチンとケジメを付けて恋人になるとか。


 なのに僕は、大学入学以来、そんな素振りも見せずに素知らぬ顔で甘え続けてたことになる。


 いくらなんでもコレは失礼だったと思う。

 常日頃から、イロハさんのことを大切な友達だと言っておきながら、なんたる失態。


 だったら、告白でも何でもして付き合えばいいじゃん!って話しなんだけど、僕にはまだ信じられないんだよね。


 直接本人に確かめようかとも考えたよ?

 でも、やっぱり聞けないじゃん。


 もし違ってたら「タイチくんって私のことそんな目で見てたんだ。幻滅なんですけど。もう友達としてのお付き合いも遠慮したいんですけど。タイチくんと食事するのも二人きりで過ごすのも、下心ありそうで超怖いんですけど」ってなるかもしれないって思ったら、凄く怖いでしょ?


 だって、今のイロハさんとの関係って、凄く居心地が良いんだよ?

「いつもご馳走になってばかりで、僕からしてあげられることが無いから本当に申し訳ないよ」って良く言うんだけど、なのにイロハさんったら「タイチくんにそんなこと求めてません。ただ話し相手になってくれるだけで、私は助けられてます」って毎回言うんだよ?

 こんなにも出来た子との友情関係を壊しかねない真似なんて、怖くて出来ないでしょ?



 要は、僕はビビってるんだね。

 恋愛経験無いわけじゃないけど、唯一の恋愛経験って、あのチカだけだし。

 チカは何でも思ってることストレートに言ってくれたから、僕が神経尖らせて相手の機微を読み取る必要とか無かったんだよね。

 しかも結局浮気されてるんだからその認識も間違ってた訳だし、僕の恋愛経験なんてマイナスみたいなもんで、活かせるような立派な経験じゃない。


 参ったなぁ

 困ったなぁ

 ってグダグダ悩んでたら、もう11月も終わりですわ。

 来月はクリスマスですわ。

 恋人の季節ですわ。


 あ、因みに、イロハさんを恋人としてどうかってのは、僕の中では勿論『イロハさんが恋人だなんて最高じゃないっすか!!!』の一択だよ。

 なんなら、もし恋人になれたら将来の結婚まで考えちゃう。

 真面目で礼儀正しくて、努力家で勉強も出来て、料理も得意で、話も合うし、お互いの価値観とかも理解してて、今でもお互いに尊重しあえる異性だなんて、最高でしょ?


 でも、やっぱり怖いんだよね。

 無意識に、チカに浮気されたことを未だに引き摺ってるのかな。

 そんなこと無いとは思うんだけど、でもビビちゃってるんだよね。





 で、ゲボ吐きそうなほど悩んで悩んで逆流性胃腸炎になったので、他の友達に相談することにした。


 相談したのは、同じ初等過程の松坂くんと白川さん。

 何故ならこの二人は、現在進行形でお付き合いしてるから。

 学生カップルの先輩とも呼べるこの二人なら、僕の悩みも聞いてくれるだろうし、有効なアドバイスが貰えるだろうと。


 で、講義終わった後に「コーヒー奢るから相談に乗って頂戴」と強引に誘って、構内の喫茶店に連れていった。


 で、僕の悩みを打ち明けた。


 そしたら、二人から怒られた。

 滅茶苦茶怒られた。

 二人同時にツバ飛ばしながら早口で。

 19歳の成人男子が、同い年の19歳の学生カップルに怒られた。

 大学の喫茶店で。


 曰く

「何寝ぼけたこと言ってるの!?瑞浪さんが坂本くんのこと好きなのみんな知ってるよ!っていうか、本気でただの友達だと思ってたの!?」

「坂本、いくらなんでもそれは無いわ。今の関係が壊れるのが怖い?何ぬるいこと言ってるの?バカなの?」


 はい、バカです。

 ココの大学入れたのも奇跡なので。


「坂本、知らないのなら教えとくけど、瑞浪さんって「みんなでご飯食べに行こう」って誘っても「タイチくんも行くなら」って毎回決まって言うんだよ。坂本来ないと瑞浪さん来ないんだよ。だから瑞浪さんが坂本のこと好きなのみんな知ってるんだよ。瑞浪さんもそれを隠そうとはしてないから、敢えてみんな温かく見守ってるんだよ。お前だけだよ、のほほんって顔して、瑞浪さんの好意に甘えてんのは」


 そりゃ酷い。僕が松坂くんなら、そんな奴、ぶん殴ってるな。


「あと言っておくけど、瑞浪さんと坂本くんがくっつくってみんな思ってるから誰も瑞浪さんに手を出そうとしないけど、アナタがそんなんだと、その内、他の男子が瑞浪さんにちょっかい出してくるよ? 性格凄く良いし、真面目で礼儀正しくて、普段地味な恰好ばかりしてるけど容姿は整ってるから、そういうの見てる人はちゃんと見てるからね? 今だって狙ってる男子居ても可笑しくないからね?」


「はぁ?それ凄く困るんですけど!?イロハさんに他に恋人出来たら、僕どうしたらいいの!?また一人ぼっち!?」


「だから、さっさと告って付き合えよ!」

「そうだよ!瑞浪さんだって絶対待ってるって!」


「あの、大学の喫茶店でそういう熱血なことを大声で言われると、凄く恥ずかしいんですけど」



 しかし、岡崎さんよりもイロハさんのことを知ってる友達二人からこう言われたら、ビビって尻込みしてる場合じゃないってことは分かった。



 なんてこった。

 僕が男を見せる時が遂に来たと言うことか。



 僕は腕組みをしながら天井を見上げて目を瞑り、静かに『恋の炎』と言う名の闘志を灯し始めた。



「ナニ一人の世界に入ってんの?さっさと瑞浪さんに会いに行けよ!」



 それにしてもこの二人、僕に対して厳し過ぎると思うんですけど。





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