#21 友達と再会して思うこと




 週末の金曜日は酒屋が忙しくて、大学の授業も午前中だけなので、毎週午後からバイトに入っていた。


 金曜日の配達先は駅近くの飲み屋街のお店が中心で、1軒ごとの配達量も多くて、午後の3時から夜の21時まで途中夕食の休憩を挟んで、あとはずっと働きづくめ。



 この日も金曜日で、お得意さんである居酒屋に一人で配達に行き、ビールケースを降ろして台車で店内へ運び込むと、そこでマリと再会した。


 マリとは大学に入学した時期からずっと会ってなかったし、タイチのことが有って以来、連絡も取ってなかった。

 正確には、連絡が着ても返事をしていなかった。



「あれ?チカじゃん!え?どうしたの?酒屋で働いてんの!?」


「うん、まぁ。 久しぶり、元気そうだね」


「私も先週からココでバイトしてんの」


 マリの卒業後の進路は、就職だった。

 確か、衣類関係の製造メーカーの工場だったはず。


「そうなんだ。お仕事の方は?」


「あぁ、辞めちゃった。結構キツクてさぁ。チカも酒屋で働いてるってことは、大学辞めたの?」


「ううん。私は大学行きながらのバイトだよ」


「へぇ、そうなんだ。っていうか、なんかダサくなってない?昔はもっとお洒落で可愛かったのに。 そーいえば、坂本と一緒の大学行く予定だったのに、捨てられたんだっけ」


「おい!新人!サボってねーで働けよ!」


「はぁ~い。 んじゃまたね!」


「ん」



 高校生の頃は学校でも放課後も毎日の様に一緒に居たけど、久しぶりに再会しても、懐かしさよりも『マリってこんな子だっけ?』という残念な気持ちしか湧かなかった。


 自分が仕事辞めたから、私も大学辞めてると普通に思ったんだろう。

 それが見当外れだったからイヤミの一言でも言ってマウント取ろうとしたのかな。

 もしかしたら、指定校推薦で早くから進学先が決まってた私のことを、当時から面白く思って無かったのかもしれない。


 そう言えば、あの頃からマリってこんな調子だった。

 ダラしなくて、その場のノリに適当に併せては、他人のことを揶揄ったり下に見たり。

 そして、いつも一緒に居た私も、そんな風に振舞ってた。

 最初はマリのそんな態度や振る舞いに内心顔をしかめてたのに、いつの間にか自分もそうなってた。


 当時の私も周りからはこんな風に見られてたのか。

 そりゃ、バカで頭の緩い女だって見られて当然か。

 だから彼氏が居ても男子から声掛けられるし、頻繁に遊びにも誘われてたんだ。


 それでチヤホヤされて調子に乗って、ハメ外して、浮気までしてたんだから、結局私もマリのこと何も言えない程のバカな女だったってことか。



 でも、マリは相変わらずの様だったけど、私はもうあんな風には戻りたくない。

 まだ卒業後の目標とかは無いけど、後悔だけはしないようにしたい。

 親にも心配かけたくないし、何より、2度とタイチに顔向けできない様な真似だけは絶対にしたくない。






 配達を終えてお店に戻ると、回収した空ビン等を降ろして直ぐに次の配達分の積み込み作業を始めた。


 もうすっかり季節は秋なのに汗びっしょりで、額を流れる汗も気にせずに作業を続ける。

 

 メイクは最低限。

 髪はGWに切ってからずっとショート。

 服装はGパンにTシャツでお店の前掛け。

 そして、首にタオル巻いて、手には軍手。


 高校までなら、こんな恰好は絶対にしなかっただろう。

 でも、『ダサくて』結構。

 今のこの恰好は、何も恥じることは無い。

 笑いたい人には笑わせておけばいい。

 大学だって、誰が辞めてやるもんか。

 


 よし。

 バイトだけじゃなくて、学校の勉強ももっと頑張ろう。

 そして、絶対に4年で卒業する。

 

 ささやかだけど、それが今の私の新たな決意。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る