#17 消息を知って




 7月に入り、大学は夏休みに入った。


 大学では相変わらずで、誰とも関わろうとせずに一人で通って授業を受けていた。

 勉強の方はぼちぼち何とかなっている様な状況で、前期試験は苦労したけど無事に終えることが出来た。




 GWに始めた酒屋のアルバイトも何とか続いている。

 相変わらず力仕事ばかりで大変だけど、今は荷を降ろしたり積んだりだけじゃなく、配達周りで御用聞き(注文を聞いたり、売り込みしたり)もさせて貰っている。


 因みに、バイト以外の日も夕方はジョギングや筋トレを始めた。

 バイト始めて自分の体力の無さを痛感して、バイトを続ける為にも危機感を感じたから。

 お陰で、空ビンのビールケースなら2つ(ビン40本分)までは重ねて持てるようになっていた。

 最初は1つでもフラフラだったから、随分と筋力が付いたと思う。


 そして、この夏休みに車の免許を取得することにした。

 社長から「免許取って配達一人で行けるようになったら、手当出すよ」と言って貰えて、悩んだ末に挑戦することにした。




 そんな夏休み前半。

 ママから「タイチくんの進学先、分かったわよ」と教えられた。


「え!?ホントに!?」


「ええ、多分間違いないと思う。 タイチくん、〇〇県の教育大学に合格してたみたいね」


「教育大・・・」


 名前くらいは私も聞いたことある。

 国立だからそれなりに有名な大学だ。

 だけど、ココからはかなり遠い。



「でも、どうして分かったの?」


「ご近所さんの噂話と、あとは高校で新学期になってから配布された学校通信ね」


 ママはそう言うと、知り合いから入手したという今年の『〇高便り』と呼ばれる学校通信を広げた。

 私も去年まで学校で貰っていたから、見慣れた題字の表紙だ。


 目当ての記事を探すと、最後のページにあった。

 昨年度の進学実績を紹介している欄に『国立大学 3名(現役合格1名)』とあり、その下に3つの国立大の名前が並んでて、その中に『〇〇教育大学』の名前が入っていた。


 確かにコレなら個人名は伏せているし、事情を詳しく知らないと現役合格者がタイチだとは誰にも分からない。

 でも、3つの内のどれかにタイチが合格していることは間違いなさそうだけど、この学校通信だけだとタイチの進学先が『〇〇教育大学』だとは断定は難しい。

 でも、ママの話だと、ウチの高校とは無関係のご近所さんから『△丁目の坂本さんのところのタイチくん、〇〇教育大学に現役合格したんですって』と聞いたらしい。

 噂話だから信憑性は微妙だけど、2つの別々の情報に矛盾が無いことから、タイチが〇〇県の教育大学に入学している可能性は高い様に思えた。



「そっか、教育大学に進学してたんだ。 タイチ、学校の先生目指してたんだね。全然知らなかった」


「そうね。タイチくん頑張ったんだね。 チカちゃんも頑張らないとダメよ?」


「うん。わかってる。 ママ、教えてくれてありがとう」



 タイチの消息を知る有力な情報には嬉しかったけど、タイチに会いに行こうとは思わなかった。


 分かっただけでも充分。

 私はタイチにとって、必要の無い人間だから。

 もうこれ以上迷惑掛けることは出来ない。



 でも、手紙に『新しい大学生活では、夢に向かって頑張ります。』と書いてたタイチの将来の夢の内容を知ると、『応援したい』という気持ちが湧いてきた。

 直接じゃなくて間接的にでも良いから。


 色々考えた末に、食料品を送れないかと考えた。

 料理が苦手なタイチには、食料品を送るのが一番の支援になる様に思えたから。


 なので、レトルトやインスタントに缶詰などの日持ちする物を大量に買い込み、ダンボールに詰めてタイチの実家に渡すことにした。


 ただ、私はもうタイチの家族からも嫌われているので、ダンボールを自転車の荷台に括りつけて運び、記名入りで『ご迷惑お掛けして申し訳ございませんでした。タイチくんに送って下さい』と一言お詫びとお願いのメモを貼って、タイチの実家の玄関先に置いて来た。


 本当は、玄関先にダンボールを置いた後も『やっぱり、迷惑かな』『余計なお世話だよね・・・』と悩んだけど、『怒られたら、その時はしっかり謝って引き取ろう』と自分に言い聞かせて、置いてきた。



 完全に自分の自己満足だけど、教師を目指すタイチの応援をしたかった。

 今の私が出来ることを考え抜いて、これしか思いつかなかった。

 タイチに渡して貰えないかもしれないし、突き返されるかもしれない。

 でも、無駄だったとしても、タイチを応援出来ることが自分にとっての張り合いになる実感を感じていた。


 こんな気持ちは、タイチにフラれてからは初めてのことだった。

 もしかしたら、付き合ってた頃でもこんな気持ちになれたことは無かったかも。






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