#13 寝取られ童貞野郎でも



 GWに入った初日。


 教えて貰った住所をスマホのナビアプリ頼りに訪ねた。

 瑞浪さんも僕と一緒でワンルーム借りて一人暮らししてるんだけど、僕の家から自転車で5分くらいの結構近くに住んでて移動も直ぐなんだけど、流石にご馳走して貰うのに手ぶらは不味いと思って、ちょっと奮発してスーパーでイチゴ2パックを買ってからそれを手土産に訪ねた。


 瑞浪さんの住むマンションは僕のところと同じような学生向けの様で、瑞浪さんの部屋は1階にあった。


 ピンコーンってインターホン押すと「は~い」って聞こえて直ぐに出て来てくれたんだけど、玄関扉開いて出て来たのがいつもの瑞浪さんと全然違ってて、一瞬部屋間違えたかと焦った。


 普段大学だと眼鏡掛けてて、髪型も三つ編みのおさげにしてること多いし、化粧だってしてるかしてないのか分からないくらいで、あまりあか抜けてない印象がある。

 なのにこの時は、眼鏡掛けてなくて髪も下ろしてて、スカートも短くてタイツは履いてるけど脚見てちゃってるし、メイクもバッチリで、年相応の女子大生って感じだった。

 でも一応「あ、やっぱり瑞浪さんだ」って直ぐに分かったけど、思わず動揺しながら「これ、つまらない物ですが・・・」って他人行儀になって手土産のイチゴ渡してた。


 上がらせて貰うと部屋に案内されて、緊張しつつも腰を降ろす。


「気を遣ってくれなくても良かったのに。でも態々ありがとうございます」


「いえ、こちらこそ。お蕎麦楽しみにしてたので」


「なんだかいつもの坂本くんと違いますね? ちょっと・・・他人行儀? 借りて来た猫みたいですよ?」


 いや、それを言ったら瑞浪さん、あなたもいつもと違うよ?


「うん、まぁ、そうかな? 女の子の部屋だから、緊張してるのかも」ははは


「うふふ。 今から準備するから、遠慮せずに寛いでて下さいね」


「うん、お構いなく」



 僕に冷たいお茶を出してくれると、瑞浪さんはスリッパをパタパタ鳴らしてキッチンへ行って、エプロンを身に着けて調理を始めた。


 待ってる間、部屋の中をぐるりと見まわした。

 部屋の広さは僕の部屋と同じかな。

 でもキッチンが広めで廊下に扉が2つあるから、お風呂とトイレが別々なのかな。

 僕の部屋よりも家賃高そうだ。


 それと、いつもと違う女の子らしい装いの瑞浪さんだけど、部屋の中は普段のイメージ通り、難しそうな専門書や文芸書に新書とか沢山あって、真面目で勉強熱心な瑞浪さんらしい部屋だった。



 再びキッチンで調理している瑞浪さんに視線を向けると、忙しそうに調理してて、でも慣れてる感じで手際が良さそうに見えた。


「瑞浪さんはいつも自炊してるの? 凄く慣れてて手際が良さそうだね」


「うーん、お家で食べる時はなるべくご飯炊いて自炊するようにしてるかな。ホントは節約してお昼とかも弁当作って持って行くようにしたかったんですけどね。 まだ忙しくてそこまで余裕ないから、この生活に慣れてきたらそうしようかなって思ってます」


「凄いね。 僕なんて料理慣れてないから、まとめてカレーを何日分も作って、それで凌いだりしてるよ」


「一人暮らしだと大変だけど、ちゃんと栄養のバランスとかも考えないとダメですよ?」


「そうなんだけどね、コレばかりは中々簡単じゃなくて」


「じゃあ今度は坂本くんのお家にご飯作りに行きましょうか?」


「それは流石に甘えすぎてて申し訳ないよ。授業のことだけでも滅茶苦茶甘えてるのに」


「気にしなくても良いですよ。私だって楽しんでますから」うふふ



 雑談してる間も瑞浪さんは手際よく調理してて、盛り付けが終わると僕が待つローテーブルの所へ二人分のどんぶりを1つづつ運んで、最後に地元の漬物だという小鉢も並べてくれた。


 どんぶりには事前に聞いてた通り、お蕎麦の上に大根おろしが大盛で乗っていた。

 先ほどからカツオの出汁の臭いに食欲が刺激されてて、早く食べたくて仕方なかったので、瑞浪さんがエプロンを外して対面に座ると、僕は勢いよく手を合わせて「いただきます!」と言って、箸を持った。


 箸の先で大根おろしの山を崩して、少しお出汁に溶いてから麺を摘まんで食べ始めた。


 確かに独特の歯ごたえだ。

 僕の地元で食べる蕎麦とは食感が違う。

 そして何よりも、濃いめの出汁に対して大根おろしがサッパリしてるから、箸が進む。


「どうですか?お口に合いますか?」


「うん。凄く美味しいです。 越前そばって初めて食べたけど、同じ雪国だからなのか、お出汁は僕の地元と似てて、結構好みです。 あ、お漬物も頂きますね」


「はい、どうぞ。 でも良かった、お口に合って。 家族以外に料理食べて貰うの初めてだったから、緊張しちゃいました」うふふ


「いやぁ、瑞浪さん、料理も上手なんでビックリしましたよ」


「ビックリしたんですか? 私って不器用で純臭そうにに見えますもんね。料理とかもダメそうに見えてたんですね」


 瑞浪さんは箸の動きを止めると、珍しくちょっぴり恨めしそうな目をして、じと~って見つめてくる。


「あ、いや、そういう意味じゃなくて、えっと、勉強も出来て、面倒見も良くて、それで料理上手とか『女子力たかすぎじゃない!?』っていう意味でビックリしたって話で・・・そう!良いお嫁さんになるんだろうなぁ!っていうビックリ!将来の旦那様が羨ましいな!的な?」あははは


「お嫁さん!?」


 なんだか言い訳すればするほど、ドツボにはまっている様な気がしないでもない・・・


「このお漬物も美味しいね!甘ずっぱくてクセになりそうです!」


 強引に話題を変えようとしたけど、瑞浪さんは「私、まだ結婚とかは考えてないです・・・」と言って、なんだか重い空気になってしまった。


 そりゃまだ18だもん。それくらい分かってるよ。

 例えだし。それくらい料理上手なんだねっていうね。


 今日の瑞浪さん、いつもと違って、なんか難しいな。

 女心は複雑で難解ってやつか?

 ちょっと面倒だぞ。

 チカだとズバズバはっきりしてたから、こんな風によく分からない空気になること滅多になかったし。


 これは、もしかして・・・

 僕のコミュニケーション能力を試されてるのか!?

 女心を正確に読み解いて、如何に女性相手に不快感を与えずに楽しいトークが出来るかを試されてるのか!?


 一応は教師を目指す端くれとして、僕にもそういうのは必要だろう。

 教師になれば女子生徒を相手にすることだって当然ある。

 普段不甲斐ない姿ばかり見せてるから、瑞浪さんも僕に対して不安を抱き始めてるのかも。


 ココは一発ガツンと見せないと!

 僕がただの寝取られ童貞野郎じゃないってことをね!



「そう言えば、今日の瑞浪さん、凄く可愛いですよね。 眼鏡なのも落ち着いた雰囲気で良いけど、外すと雰囲気柔らかくなって凄く可愛らしいです。お洋服もお洒落だし、スカートなのも新鮮です」


 容姿を褒められて嬉しくない女子は居ない。

 ソースはチカ。

 チカが機嫌が悪い時は、「今日も可愛いね」って言えば一発だった。



「そ、そうかな・・・いつもは家でも眼鏡なんですけど、今日は少し気分を変えてみたくて」えへへ


 ほら、一発だ。




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