#12 親交深まり
『地元を離れて、県外の大学へ行く』ことに拘ったのは、地元はチカとの思い出が多すぎたから。
自分の部屋ですらチカと過ごした思い出が沢山詰まってた。
だから、姉ちゃんとの会話の中で『県外に進学』と思い浮かんだら、凄く魅力的思えて、地元から離れたくなった。
言い換えれば、チカとの思い出をリセットしたかった。
まぁ、実際に地元出てきて一人暮らし始めてみて分かったけど、早々簡単に忘れるのは無理っぽいね。
どうしてもことあるごとに思い出しちゃうんだよね。
そりゃ5年の付き合いだもん。
ずっと好きだった子だもん。
チカはキツイところあるけど、しっかり者で責任感あって、ストレートな性格が好きだったんだよなぁ。
僕が他人に遠慮しちゃうとこあるから、女の子なのにあんな風に堂々としてて思ったことハッキリ言うチカのこと、尊敬してたし一緒に居ても楽しかった。
怒られてばかりだったけど、それも嬉しかった。
ホントだよ?
男ならそういうの無い?
好きな子に構って貰えるのが嬉しいの。
勿論、恋人同士だったから構って貰う機会は多かったけど、僕に向かって怒るチカのこと、好きだった。
付き合う前は「ガミガミ
だけど、それも次第に無くなってて、気付いたらこの有様ですわ。
剣道ばっかしてたのがダメだったのかなぁ。
まぁ、今更クヨクヨしてても仕方ないよね。
チカが僕以外の男に行った理由はこれまで散々考えて、でも結局よく分かんなかったんだし。
こうして別々の道に進み始めたんだから、前を向かないとね。
◇
4月が終わりに近づく頃には、大学では瑞浪さん以外にも沢山の友達が出来ていた。
同じ講義とかで良く顔を会わせる人とか何人も居て、よく声を掛けられるんだよね。
それがさ、僕と瑞浪さんがいつも一緒に居るから、「二人は付き合ってるの?」とか聞かれるの。
それが会話の切っ掛けの定番になってた。
勿論付き合ってる訳じゃないから、「いえいえ、お友達ですよ」って二人で否定するんだけどね。
でもそれが会話の切っ掛けになって、「出身地全然違うし、たまたま入学式で隣だったから」とか話すと、「俺も県外からだよ」とか「私も初等過程だよ」とか教えてくれたりして、顔見知りからお友達になって、一緒に講義受けたりお昼一緒に食べたりするようになってね、みんなで連絡先も交換してたし、大学生ってこうやって交友関係広げてくんだなぁって、勉強のこと以外でも少しづつ慣れてきて、充実した大学生活を送っていた。
でも、友達増えても僕の中で瑞浪さんはちょっと違うんだよね。
なんて言うか、一目置いてる存在っているか、リスペクトしてるっていうか、「この子には嫌われたくない」とか「僕の話で笑ってくれると、嬉しい」とか、自分でも上手く言えないけど、特別な存在?
恋愛感情とはちょっと違うと思うんだけど、シンパシーを感じる仲間とか同士っていうのかな。
入学式からの付き合いで、意気投合して最初に友達になったからなのかな。
そんな瑞浪さんなんだけど、GWに初めてお家にお呼ばれした。
切っ掛けは、GW直前に大学の学食で二人で食事しながらお喋りしててね、お蕎麦の話になったの。
僕の地元は結構お蕎麦が有名な土地柄だったんだけど、瑞浪さんの地元もそうらしくて、それで「コッチのお蕎麦って美味しくないよね」って話になって、「僕の地元だと、もっと細くてお出汁も濃いめなんだよね」って話すと、「私の地元だと大根おろしで食べるんですけど、もっと歯ごたえあるんですよ」って教えてくれて、「へぇー美味しそうだね」って僕が何気なく言うと、「でしたら作りますよ!坂本くんに是非越前そばを食べて貰いたいです!」って急にスイッチ入ったみたいに言ってくれて、それで態々実家にお願いしてお蕎麦取り寄せて僕にご馳走してくれるんだって。
なんていうか、瑞浪さんらしいというか、お互い田舎者だからよく分かるんだけど、余所者には警戒心強いくせに仲間意識あるとついつい前のめりになっちゃうんだよね。
仲間見つけた!
私の気持ち分かってくれるよね!
うんうん!分かる分かる!
みたいな感じ?
でも最初は、年ごろの女の子の部屋に男の僕が一人で行くのは遠慮した方が良いと思って、「僕んちにしようか」とか「他の友達も呼んだ方がいい?」とか気を遣ったんだけど、「私の部屋のが調理器具とか揃ってるし、遠慮しないでください」って言ってくれて、お言葉に甘えて一人でお邪魔することにした。
女の子の部屋に一人でお邪魔するのなんて、凄く久しぶりだよ。
チカの部屋だって、高3になってからは一度も行ってないし。
瑞浪さんはあくまで尊敬する友達で、恋愛的な気持ちは無いけど、でもやっぱり意識しちゃうよね?
僕だって男の子だもん。
ふふふ
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