#11 宝物のメダル
タイチの手紙が届いてから、1カ月が過ぎた。
入学式以降、タイチの消息を探すのは止めた。
タイチの家にもおばさんに怒鳴られてからは行ってない。
タイチの消息が掴めない現実が、タイチがどれだけ私との縁を切りたかったのかを思い知らされ、打ちのめされ、そして気持ちも折れた。
タイチの手紙には『あなたにとって僕はもう必要の無い人間だと突き付けられたのは、絶望以外の何物でも無かった。』と書かれていた。
私はそんなこと考えてなかったけど、タイチは私の浮気を知った時、そう受け止めたんだ。
そして、今度は私がタイチから『僕にはもう必要ない人間だ』と突き付けられた。
自分がその立場になって、どれだけタイチが傷ついたかがよく分かった。
タイチが絶望した時の気持ちを身をもって理解してしまったら、もうタイチに縋ろうとする気持ちは消失した。
本当は会いたい。
会って、謝りたい。
罵倒されても良いから、キチンと謝りたい。
でも、その資格が無いんだと諦めるしか無かった。
今の私は空っぽ。
無気力で、目標も張り合いも無く、ただ義務感だけで大学に通うだけ。
大学には友達も知り合いも居ないし、高校までの友達とも連絡が来ても返す気になれずに放置してたら、1カ月で誰からも連絡が来なくなった。
一人になりたかったから、別にそれはいい。
むしろ、煩わしさすら感じてたし。
でも、一人だとタイチのことばかり考えてしまう。
ココ(地元)は、タイチとの思い出が多すぎる。
特に私の部屋は、タイチとの思い出が沢山詰まってる。
だから、何かにつけてタイチとの思い出が甦る。
もしかしたら、タイチも同じ気持ちだったのかな。
私のことを捨てて地元を離れたのも、ココには私との思い出がいっぱいあったからなのかな。
タイチの性格考えると、そんな気がする。
大学に入学して初めての大型連休のGW最初の日。
私は思い立って、部屋の模様替えをすることにした。
まずはダンボールを組み立てて、要らないものやタイチを思い出してしまう様な物を片付けることにした。
最初は押し入れから始めて、洋服ダンスにキャビネット、最後に机の引き出しの中身を出してはダンボールに入れていく。
卒業アルバムや普段着てた服、古い肌着や靴下とか小物、中学や高校の頃の教科書やノートなんかも放り込んでいった。
すると机の引き出しから、グレーの小箱が出て来た。
箱のフタを外すと、中にはくすんだ色のメダルが入っていた。
メダルには、『令和2年度 〇〇市高等学校総合体育大会剣道新人戦 団体戦 優勝』と書かれてて、首に掛ける為の赤いリボンが付いていた。
タイチが高1の時、初めてレギュラーに選ばれて出場した大会で、優勝した時に私にくれた物だった。
私はあの時、試合会場まで応援に行って、タイチが出場した全試合を観戦してた。
あの時のタイチ、凄く恰好良かったなぁ。
決勝戦で次鋒だったタイチは3人抜きして、優勝に大きく貢献したんだ。
応援してたら嬉しくて興奮しすぎて、思わず泣いちゃったっけ。
試合会場からの帰りのバスで、試合の興奮が醒めずに「タイチ恰好よかったよ!」って騒ぐ私に、確か「チカが応援に来てくれたから、良いところ見せたくて頑張っちゃった。チカのお蔭で勝てたよ。ありがとう」って言ってメダルを私の首に掛けてくれて、そのまま「チカにあげる」ってくれたんだ。
メダル見るまで、忘れてた。
とても大切な思い出と宝物なのに。
あぁ・・・なのに私、3年の最後の試合、応援に行ってないじゃん。
あの時のことも急に思い出した。
去年の6月だったかな。
事前にタイチから「今度の日曜日の大会、負けたら最後の試合になるから応援来て欲しい」って頼まれてて、「わかった。応援行く」って約束してたのに、前日が土曜日で遅くまで遊んでて、結局当日の朝、寝坊して、試合会場も遠かったから面倒になって、『朝起きたら体調悪くて、応援行けなくなった』ってドタキャンしたんだ。
しかも、前日はサトシと遊んでた。
「明日、タイチの試合に応援行くから早く帰る」って言ったら、サトシがヤキモチ焼いて、それで早く帰して貰えなくなって、私もなし崩し的に結局遅くまで、ってこんなのばっかだ、私。
タイチの最後の試合、見に行くべきだった。
タイチの最後の剣道着姿、目に焼き付けたかった。
ちゃんと「お疲れ様でした」って言ってあげたかった。
はぁ。
今更こんな後悔ばかりだ。
タイチ、大学でも剣道続けるのかな?
続けて欲しいな。
でも、慣れない一人暮らしじゃそんな余裕ないのかな。
タイチ、料理とか全然ダメだし普段の生活もダラしないから、一人暮らしなんて大丈夫なのかな?
朝とかちゃんと起きて遅刻とかしてないかな?
洗濯物とか出来るのかな?
剣道続けてくれなくても良いから、元気に頑張ってて欲しいな。
凄く心配になってきた。
私なんかに心配されても嫌だろうけど、迷惑かけないように勝手に思うくらいはいいよね?
手に持ってたメダルはダンボールに入れずに小箱に戻して、フタを外した状態で机の正面の棚に飾ることにした。
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