#10 初めての友達



 入学してから1週間が経った。


 大学の講義って、堅苦しい名前で内容がよく分からないし、似たような名前のも一杯あって違いが分からないし、履修登録は全部ネットでやらないとだし、そうこうしてる内にも各講義がスタートしてるから、モタモタしてるとその分遅れちゃうし、ホントこういう時に自分の要領の悪さにウンザリするよ。


 よくチカにも怒られたわ。

「モタモタしないで!」とか、「ちっがうでしょ!こーしないとダメでしょ!」とかさ、僕と違ってチカは要領良くてせっかちで直情的でストレートで、でも面倒見が良くて、中学の時とかチカ居なかったら僕なんてもっと頭悪い高校いくハメになってただろうな。

 ある意味、今、僕が落ちこぼれずに国立の大学生になれたのって、チカのお陰なんだよね。


 悪い意味でだけど国立目指す切っ掛けはチカだったし、ギリギリでも国立目指せるだけの高校に入れたのもチカが「死ぬ気で勉強しろ!」ってお尻叩いてくれたお陰だし。


 まぁ、その高校には新山とか居た訳だから、僕に合わせず別の高校行ってたらチカだって浮気なんてしてなかったかもしれないんだけどね。

 って、それはタラレバか。


 でも、チカと別の高校行ってたらもっと早く別れてたかもだし、僕は国立なんて目指してなかっただろう。だから、結局はチカと同じ高校に行けたことで僕にとっては将来的に優位な道に進めたと思う。

 そう思うべきだよね。




 って、閑話休題。


 履修の話だ。


 ネットで登録とか言われても一人じゃ分かんないし、学生課で化粧の濃い職員のお姉さん捕まえて色々聞くんだけど、言ってることの半分も解んないしで困ってたら、たまたまその学生課で別の用事で来てた瑞浪さんと再会してさ、瑞浪さんに履修登録終わったか聞いたら終わってるって言うんで、「コーヒーおごるから、教えて下さい!」ってお願いして、構内の喫茶店に連れて行ったよ。早く履修登録終わらせないとって焦ってたからね。


 いや、ナンパじゃないよ?

 僕はナンパなんてしたことないからね?

 後で連絡先交換したけど、連絡先のこと言い出したのも瑞浪さんだからね?

 



 それで、瑞浪さんったら教えるの上手なの。

 学生課の化粧の濃い職員さんとは全然違うの。

 教師になるのが小さい頃からの夢だって言ってたし、流石教師を目指すだけはあるよね。

 あ、それは僕もか。テヘペロ


 それに、真面目で大人しそうに見えても実際に喋ってみると結構お喋りでニコニコしてて面倒見も凄く良いんだよね。 僕が履修登録のことで色々質問しても、中々理解しない僕に嫌な顔1つしないで1つ1つ丁寧に教えてくれたし。

 なんか、クラスに一人は居るような優等生タイプ?

 案の定、あとで聞いたら中学高校とよく学級委員に選ばれてたんだって。 それ聞いて凄く納得したよ。


 それでね、瑞浪さん入学式の翌日から片っ端から講義受けて、実際に授業聞いてから履修するの決めてるんだって。凄いよね?そんな人居るんだね。それで、その話の流れでお薦めの講義とかも色々教えてくれたから、ほぼ全部瑞浪さんと同じ講義とっちゃった。

 これで試験とか頼れるね!


 この調子で、コース選択やゼミも瑞浪さんを頼ろうかな。

 先生よりも瑞浪さんで選ぶゼミ。

 まるで僕、ストーカーじゃん!


 流石にゼミくらいは自分で考えるべきか。



「坂本くんは、もう選択コースは決めたんですか?」


「まだまだだよ。履修登録ほど急ぐ必要ないみたいだし、後回しだね。どんなのあるかもまだ調べてないし」


「そうなんですか。 あの、もし良かったら、一緒に調べませんか?」


「調べるって、選択コースを?」


「はい。 あ、でも・・・流石にそれはずうずうしいですよね」


「いや、別に、そういう訳じゃ。 むしろ僕の方が」


「坂本くん、入学式の時から話しやすくて、今日だって学生課で坂本くんから話しかけてくれて、嬉しくてついつい私も調子に乗って友達みたいに慣れ慣れしくしちゃいました」


「え?瑞浪さんが? 僕は初対面でいきなり手を繋いじゃうようなセクハラ野郎だよ?しかも履修登録すら一人で出来ないダメな子だよ?」


「坂本くんはダメな子じゃないです!凄く頼もしいです!入学式の時だって手を繋いでくれて凄く安心したし、助けてくれて凄く嬉しかったんです!」


「そ、そうかな?そんな風に言われたら、照れちゃうな」えへへ


「それで、もし良かったら・・・、その・・・連絡先教えて頂けませんか?」


「そりゃ連絡先くらい全然おっけーですけど」


「ホントですか!?」


「ええ、まぁ」


 で、履修登録も終わってたし、そのまま連絡先交換した。

 大学に入って初めて出来た友達は、瑞浪さんだった。

 瑞浪さんも、僕が初めての友達なんだって。

 すっごい嬉しそうな顔で教えてくれたよ。

 しっかりしてそうだし、自分から色々話しかけて人脈広げてたりしそうだけど、それ聞いたら、「田舎者だから、同世代の都会っ子は気が引けちゃうんです」だって。

 まぁ、僕もちょっとそんな感じだったから、ちょっぴりシンパシー感じたね。田舎者同士、気が合いそうだ。

 


「で、なんの話でしたっけ?」


「選択コースをどうしましょうか?って話でした」


「そうそう、選択コース。 折角友達になったんだし、瑞浪さんは僕なんかよりしっかりしてて頼もしいから、選択コースも一緒なら僕はとっても助かります。 あとゼミも」


 どさくさに紛れてちゃっかりゼミも一緒にしようとする僕のがずうずうしいんだぜ。


「じゃあ、また時間作って一緒に相談して決めましょうか?」


「らじゃ!」


「うふふ」




 翌日から大学では瑞浪さんと一緒に居ることが増えた。

 というか、ほぼずっと一緒に居た。

 全部同じ授業履修してるから当然なんだけどね。

 最初の講義の時間も毎回僕の席も取っておいてくれるから、隣に座って一緒に授業を受けてたし、講義の合間とかお昼の時間とかも一緒にお喋りしたり食事したりと。


 

 瑞浪さんと一緒に居ると、高校時代のまだチカと仲良かった頃の距離感?感覚?みたいなのを思い出す。

 高校時代は1年の頃はチカと同じクラスだったから、ずっと一緒に居たし、放課後も僕の部活が終わるまで毎日待ってくれてた。

 周りからも完全にバカップル認定されてたし、しかも僕がチカの尻に敷かれてるとすら認識されていた。

 姉さん女房的な感じ?

 まぁ事実だったんだけどね。


 でも2年で別のクラスになって、僕もチカも交友関係が広がって、僕は相変わらず部活に励んでたし、チカは放課後はクラスの友達との付き合い優先するようになってて、お互い他の友達と一緒に居ることの方が多くなって、3年になって僕が部活引退してからもずっとそんな感じだった。

 だからなのか、なんだか女の子とこうやって一緒に行動するのは、まだチカとべったりだった高1の頃を思い出したりして、ちょっぴり楽しい。


 まぁ、瑞浪さんをチカの代わりとして見るのはとても失礼な話なんだけどね。でも、瑞浪さん、しっかり者で僕に色々教えてくれるから、なんかチカとはまた違うお姉さん的な感じ?があって、どうしても意識しちゃうんだよね。


 それに女の子と二人で仲良くさせてもらうのは、悪い気はしないでしょ?

 むしろ、嬉しいでしょ?

 だって男の子なんだもん。

 ふふふ



 そんな風に青春をやり直してるみたいで、入学早々からちょっぴりウキウキしてた。

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