#08 3年前の約束
タイチが居なくなってから四方八方手を尽くしたけど、結局、消息は分からないまま入学式を迎えてしまった。
タイチの進学先を聞き出そうと卒業したばかりの高校にも行ってみたけど、「本人と保護者の強い要望で公表出来ない。本当は学校としても名誉あることだから公表したいんだけど、今は個人情報とか五月蠅いご時世だからな。諦めろ」と3年時の担任に言われ、何も聞き出せなかった。
タイチの家にも何度も足を運んだけど、毎回門前払いで、昨日なんてインターホン越しに『いい加減にして頂戴!警察呼ぶよ!』とおばさんに怒鳴られてしまった。
タイチの居ない大学なんてもう興味無いし行きたくなかったけど、指定校推薦で受験してるから、今更「やっぱり辞めます」は通用しない。
指定校推薦の希望出した時、担任に「途中で辞めたりしたら、お前だけの責任じゃ済まなくなるからな?責任持って卒業する約束が出来ないと指定校には選んでやれないからな?」って散々言われて、それでも「ちゃんと卒業します」って言いきっちゃったから。
なんでこんなことになっちゃったんだろ。
こんなハズじゃなかったのに。
タイチとこの先ずっと一緒で、大学出てからも一緒で、結婚だってするつもりだった。
その気持ちは中学の頃からずっと変わってないハズなのに。
私にとってタイチは特別な存在だったハズのに。
なのに、そんな大事な気持ちを、いつの間にか
私は、自分で自分の気持ちをぞんざいにしてた。
中学の時はあんなにもタイチのことしか見て無かったのに。
毎日毎日タイチのことだけを考えてたのに。
なのに、周りの雰囲気に乗せられて、『バレなきゃ平気』って裏切ってしまった。
タイチだけじゃなく、自分の気持ちも裏切ってしまった。
出来る事なら、中学のあの一生懸命恋をしてた頃に戻ってやりなおしたいよ・・・
中学3年の2学期。
私はタイチに怒っていた。
同じ高校に行きたいと考えていたけど、その肝心のタイチは受験勉強に真剣に取り組んでくれなくて、このままだと別々の高校になってしまうと焦ってた。
だから、タイチに怒った。
涙を零しながら真剣に怒った。
「どうして勉強しないのよ!このままじゃ高校落ちるよ!!!」
「・・・うん」
「タイチくん、私と一緒の高校に行きたくないの!?」
「いや・・・行きたいけど・・・でも」
「でも、何よ!」
「だって、チカちゃんの志望校、僕には最初から無理だもん」
「なんでよ!真剣に勉強したら行けるはずだよ!」
「僕の学年順位、知ってるでしょ?チカちゃんと100番以上差があるんだよ?」
「そんなの勉強すれば直ぐに縮まるよ!」
「そりゃ少しは縮まるかもしれないけど・・・」
私の最初の志望校は、そこそこ偏差値の高い学校だった。
確かに、3年の今から頑張ったところで、今のタイチには厳しいと言わざるを得ない。
「わかった。私もランク下げる。だから、そこには絶対に受かってよ。死ぬ気で勉強してよ。一緒の高校に行こうよ」
「え?マジで?」
「うん。私、タイチくんと離れたくないもん。絶対に同じ高校行くんだもん」
「わかった。僕もチカちゃんと離れたくない。死ぬ気で勉強する」
この日から、タイチは目の色変えて勉強をする様になってくれた。
そして春、私もタイチも無事に受験を乗り越えて、同じ高校の入学式に出席することが出来た。
その入学式を終えた後。
二人で校門の前で散々記念撮影をした後、私たちは手を繋いで帰り道を歩いていた。
無事に同じ高校に入れただけじゃなく、1年で同じクラスになれた私はとても上機嫌だった。
「一緒のクラスになれるなんて、一生懸命勉強した甲斐があったね!」
「うん、またチカちゃんと同じクラスになれると思って無かったから、マジで嬉しい」
「うふふ。 あ!そだ!もう『ちゃん付け』止めてよ?チカって呼び捨てで呼んでね?私も『くん付け』止めて、タイチって呼ぶから」
「え?なんで?」
「もう高校生なんだし、子供っぽいじゃん」
「うーん、わかった。 チカ?」
「うん! な~に?タイチ」うふふ
我が世の春とは正にこのことか。
この時の私たちは、誰にも止めることが出来ないほどラブラブだったと思う。
そして、絶好調の私は、タイチに1つのお願いをした。
「タイチ、1つお願いがあるの」
「うん?どんなお願い?」
「大学も同じところに行こう。 3年間頑張って勉強して、同じ大学に行こう」
「えぇ!?大学も!?」
「うん。タイチなら大丈夫。高校受験の時は半年も無かったから大変だったけど、今度は3年もあるし、大丈夫」
「大学かぁ」
「ね?お願い!一緒の大学に行くために勉強がんばろうよ」
「そうだなぁ・・・わかった。頑張ってみるよ」
「ホント!?」
「うん。約束する。 チカと同じ大学に行くって約束する」
「タイチ!大好き!」
「僕も」
「ずっと一緒だからね!私たちずっと一緒なんだからね!」
「うん」
何が『ずっと一緒』だよ。
私は自分からタイチをほったらかしにして、下らない浮気に
勉強の方だって、最初は私の方が上だったのに、タイチは約束通りずっと勉強頑張ってくれてたから2年の時には私と並んで、3年になって直ぐに私を追い抜いていた。
こうやって醒めた頭で考えれば、タイチが私との約束を守る為に努力してくれてたことが分るのに、なのに私はタイチを見ようとせずに、自分のことしか考えて無かった。
捨てられるまで気付けないなんて、どんだけバカなんだ。
何がカノジョだよ。
入学式が終わり、サークル勧誘や新歓コンパの誘いで賑やかな構内を一人俯いて歩き、どんなに声を掛けられても無視して、私は一人で大学を出た。
この華やかな賑わいは、今の私にはキツ過ぎる。
他人の笑顔をこんなにも恨めしく思うなんて。
折角の入学式だと言うのに記念写真の1枚も撮らずに正門から離れて、最寄りのバス停に向かうと行列が出来ていて、随分と待たないと乗れそうになかった。
バスは諦め、一人寂しく駅へ向かって歩いた。
はぁ。
帰って、寝よう。
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