#05 崩れ始める恐怖
は???
コレ、タイチが書いたの???
意味わかんないんだけど。
え?どうゆうこと?
タイチ、国立受かったの?
マジで聞いてないし。
ていうか、コレ、私と別れるってことだよね???
笑えないんだけど。
いやいやいや、冗談だよね?
慌ててタイチに連絡を取ろうとスマホを手に持つと、手が震えていた。
震える手でタイチの連絡先を開き、通話アイコンをタップする。
1つ2つと息を吐いてからスマホを耳に宛てると『おかけになった電話番号は現在使われておりません』とアナウンスが聞こえた。
はぁ?
なんでっ?
ちょっと待って!マジ意味分かんない!
もう一度掛け直すけど、同じアナウンスしか聞こえない。
タイチ、スマホどうしたの?
スマホがダメだと、今タイチの動向を知ることが出来るのはこの手紙だけってこと?
もう一度手紙を最初から読む。
心臓がバクバクして、手だけじゃ無くて脚までガタガタと震え出した。
私の裏切り?
浮気してたこと、タイチにバレた・・・?
地元離れて私を捨てて、一人で国立に進学?
ヤバイヤバイヤバイヤバイ
不味いことになった。
早くタイチと話さないと、取り返しが付かなくなる。
直ぐにタイチのお家に行こう。
脱ぎ捨ててあった昨日着てた春物のコートを上から羽織ると、メイクもせずに慌てて家を飛び出した。
タイチの家までは、徒歩で10分かからない。
私は無我夢中で走った。
早くタイチに会って、話さないと。
誤解だって納得させて、また今まで通りの恋人関係に戻さないと。
まだ肌寒い3月だというのに、タイチの家の前に辿り着くころには汗びっしょりで、息も絶え絶えになっていた。
全力疾走したのなんて随分と久しぶりで、特に高校に入ってからは体育以外の運動なんてしてなかったから、数分走っただけでクラクラと眩暈がしていた。
でも、そんなことを気にしてる場合じゃない私は、タイチの自宅のインターホンを押した。
応答するまでの数秒間が長く感じる。
早く誰か出て!
逸る気持ちを抑えられずに居ると、『はーい』とスピーカーから女性の声が聞こえた。
この声は、お姉さんのエリコさん?
エリコさんならタイチのこと教えてくれるはず!
「あ、あの、チカです。幸田チカです。 タイチくんと連絡が取れないんですけど、タイチくん居ますか?」
『あーチカちゃん? タイチならもう家出て一人暮らし始めてるから、ココには居ないよ』
「私、聞いてません!タイチから家出るなんて聞いてないです!どこに居るんですか!」
『そー言われても、困るんだけどなぁ』
「教えて下さい!タイチ、今ドコにいるんですか!スマホも繋がらなくて困ってるんです!タイチ、誤解してるみたいだから話さないといけないんです!会って誤解解かないといけないんです!ドコに居るか教えて下さい!」
『教えるわけないじゃん。ナニ言ってるの?』
「ナニって、タイチの居場所を教えて欲しいってさっきから言ってるじゃないですか!」
『だからさぁ、教えるわけないでしょ。 誤解も何もタイチから全部聞いてるよ? チカちゃんとはもう別れてることも、チカちゃんが二股してたことが別れた理由だってこともね。そもそも最初に見つけたの、私だし。随分前からウチの家族はみんな知ってるからね。もうタイチにもウチにも関わらないでね、さようなら!』ガチャ
中学の頃からずっと可愛がってくれてたエリコさんが、明確な敵意を私に向けていることが嫌でも分かった。エリコさんはもう私の味方にはなってくれない。
私はエリコさんの言葉に耐えられず、逃げる様にタイチの家の前から離れた。
ダメだった。
随分前から知ってた・・・?
でもタイチ、そんなこと一言も言ってなかったよ?
言わないでずっと黙ってたの?
それで私に隠れて国立受けて、私のこと騙して地元離れて一人暮らし始めてるの?
そうだ、手紙に『地獄の様な日々だった』って・・・
私が浮気してたのずっと知ってて、知らないフリしてずっと一緒に居たの?
何も言わずに我慢してたの?
あぁ・・・3年になってからなんて、ほとんど一緒になんて居なかったじゃん・・・
受験生のクセして夏休みとかサトシとばっか遊んでてタイチとほとんど会ってなかったし、冬休みだってそうだった。
学校でもクラス違ったから、顔会わせた時に少し会話するくらいしかコミュニケーション取ってなかったかも。
今思えば、サトシとの関係が始まってからずっとそんなんだった。
もしかして、浮気が原因とかじゃなくて、私が構ってあげなかったからスネちゃったとか?
それは流石に無理があるか・・・
タイチの手紙に『裏切りを知った日』って書いてあったし。
裏切りの心当たりなんて、サトシとの浮気しかない。
こんなことになるなら、サトシと浮気なんてするんじゃなかった。
バレなきゃ平気って、軽い気持ちの遊びだったのに。
それでも兎に角謝って、タイチを取り戻さないと。
どんなに罵倒されても、タイチだけは絶対に離したくない。
私はタイチと共通の友達や中学校の頃の同級生に手当たり次第連絡して、タイチのことを聞いて周ったけど、誰一人タイチの引っ越し先や進学先が国立大学だと聞いてる人は居なかった。
むしろ、『カノジョのあんたが知らないのに、私が知るわけないじゃん。あんたカノジョなのに何してんの?』と言う反応の人がほとんどだった。
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