#03 手紙を書こう




 地元を離れる二日前、チカへの手紙を書くことにした。


 最初は何も言わずに旅立とうとも考えたけど、チカとは違って僕はキチンとケジメだけは付けるべきだと思いなおし、ちゃんと別れの言葉を贈ることにした。


 しかし、スマホでメッセージを送ると不都合があることに気が付いた。


 スマホは旅立つ当日に古い物を解約して、新しい物を契約する予定だけど、いま古い方でメッセージ送れば直ぐに反応が返ってくる可能性があり、内緒で旅立とうとしているので、それは面倒で厄介だ。

 だからと言って新しく替えてからメッセージを送ったりなんてしたら、新しくした連絡先がバレてしまうので、意味が無くなる。


 う~ん、と悩んだ末に、ピコーン!と閃いた。


 そうだ、手紙を書こう。

 手紙なら届くまでの時間差があるから、チカが読む頃には僕は既に旅立った後に出来る。

 今日の僕は冴えてるぞ。

 第一志望の国立に受かった僕の頭脳は伊達じゃないな。ふふふ


 しかし、これまでの人生でまともに手紙を書いたことが無いので、便箋や封筒は持っていない。

 姉ちゃんが持ってるかも?と聞いたら、持ってたけど、なんか薄いピンク色で可愛らしい柄が付いてて、お別れの手紙としてはシリアス感が全然無かった。

 今、僕が求めている便箋はコレじゃない!と姉ちゃんに突き返して、今度は母さんに聞いたら、母さんがちゃんとしたシンプルな便箋と封筒を持ってたので、それを使うことにした。



 

 引っ越しの為に荷物のほとんどを既に送り終えた部屋に残された机に座り、便箋を前にして、なんて書きだそうかと考え始める。


 手紙はスマホのメールやチャットアプリと違って、堅苦しいマナーや作法がある。

 そこから勉強するべきか。

 手紙は妙案だと思うけど、自分が不勉強だったことを今更痛感しつつ、これも人生経験だと思いなおして、スマホで手紙の書き方を検索して、勉強を始めた。


 世の受験を終えたばかりの元受験生で、この時期でも真面目に勉強しているのなんて僕くらいだろうな。偉いな僕。ふふふ




 さて、なんて書こうか。


 チカとは別の道へ進むこと。

 約束を守れなかったことへの謝罪。 

 別れることを決意するに至った理由。

 これまでの思い出とお礼。

 新生活へのエール。


 こんなもんかな。



 入試の時に使った思い入れのあるシャーペンを手に取り、今までの事を思い返しながら書き始めるが、1行書いただけで手が止まり、中2の時にチカに告白された時の情景が頭に浮かんできた。

 



 夏休みで、確か野外学習から1週間くらい経った頃だったか。

 剣道部は夏休み中でも毎日部活があって、その日も学校の武道場で一日部活してて、汗びっしょりかいて、夕方にようやく終わってジャージに着替えてから帰ろうと部活の友達とヘロヘロになりながら校門に向かって歩いていると、校門の陰に制服姿のチカが一人で立っていた。


 キャンプの時の、のちに『カレーで泣かせた事件』と呼ばれる出来事が切っ掛けで、チカとは少し親しく会話が出来るようになっていた。

 なので、この時も校門に立つチカに気が付くと、「幸田さんも部活?今日は暑かったからキツかったでしょ?」と声を掛けた。


 僕が声を掛けると、チカは真っ赤な顔して何の前振りも無く

「坂本くん!好きです!付き合って下さい!」と叫ぶように告白してくれた。


 いきなりのことで僕は固まり、耳まで真っ赤にして俯くチカの様子を眺めているだけで、直ぐに反応出来ずにいた。

 因みに、一緒にいた剣道部の友達は「ぶっ」と吹き出していた。


 人生で初めて告白されてどう返事していいのか分からず、ノドもカラカラだったので、バッグに入れてた水筒を取り出して、残ってた麦茶をラッパ飲みしてから、「僕で良ければ」となんとか返事をすることが出来た。



 僕にとってチカは初めての恋人で、そしてこの瞬間から僕はチカに惹かれ始めて、どんどんと好きになっていった。




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