#02 カレーライスの思い出



 ワンルームでの一人暮らしを始めて、三日経った。


 大学の入学式は4月6日でまだ1週間ほどあり、今は部屋の片付けをしながら、たまに外に食事や買い出しに出かけつつ、のんびり過ごしている。


 ココは政令指定都市なので、僕が生まれ育った田舎と違って人も建物も多く、外に出る度に迷子になりかける。

 僕の様な田舎者は、スマホのナビが無ければマジで移動すらままならないね。


 田舎が恋しくないか?と問われれば、特にそんなことは無い。

 毎日の様に母さんが『ご飯はちゃんと食べているのか』だの、『出かける時は火元と鍵の確認忘れるな』だの電話してくるので、僕よりも母さんの方がセンチメンタルの様だ。



 そんな独りぼっちの新生活を始めるにあたって、とりあえずの目標として、自炊を始めることにした。

 向こうから送った荷物の中には、母さんが用意してくれた鍋やフライパンなどの調理器具に、お米や野菜なども入っていたので、早速近所のコンビニでカレールーを買ってきて、記念すべき自炊第一弾にカレーライスを作ることにした。


 カレーは学校のキャンプで作ったことがある。

 作り方はよく覚えてないけど、スマホで検索すればいくらでも料理の手順やレシピなどが出てくるので、それを見ながら作ることにした。


 慣れない手付きで包丁を握り、四苦八苦しながらジャガイモの皮を剥いていると、不意に中学校の野外学習で行ったキャンプの時のことを思い出した。


 あの頃はまだチカとは付き合ってなくて、でも同じ班で、僕とチカが野菜を切る係になって、あの時も慣れない手付きで包丁を使っていると、横からチカがやたら口うるさかったっけ。




「これ!まだ残ってるよ!ジャガイモの芽はちゃんと取ってよ! なんでコッチのはこんなに厚く皮むいてるの!勿体ないじゃん!」


「・・・はい」


「もう!ジャガイモは私やるから坂本くんはニンジンやって!ニンジンのが簡単にむけるから!」


「・・・はい」



 その後もガミガミとうるさくて、『うるさい女だな。僕もハンゴウ炊飯の係がよかったな』とか思って、一人いじけながらニンジンの皮剥きしてたっけ。

 でも、食事の時に僕の隣に座ったチカが、「さっきはごめん。坂本君、慣れてない手で一生懸命頑張ってくれてたのに、私、言い過ぎた。反省してます」って妙に神妙な態度で謝ってくれたんだよね。


 その態度に、『この子と同じ班で良かったかも』って思いなおして、「全然気にしてないよ。僕こそ足引っ張ってゴメン。それと、色々教えてくれてありがとう。凄く勉強になったよ」って話したら、チカ、泣き出しちゃったんだよね。

 お蔭で班のみんなから「坂本が幸田を泣かせた!」って騒ぎ出して大変だったのも、良い思い出だなぁ・・・って、チカのこと思い出しちゃって、やっぱり僕もセンチメンタルになってるのか!?



 一人で動揺しつつも無事に野菜の下準備を終えて、煮込み始める段階になって、お肉が無いことに気が付くも、買いに出かけるのも面倒だったので、そのまま肉無しで煮込み始めた。


 鍋にルーを投入して弱火で煮込みつつ、炊飯ジャーでご飯も炊いた。

 

 炊飯が終わり、お皿にご飯をよそい、まだシャバシャバで煮足りないカレーを掛けると、それを持って窓際まで行き、床に座って少し遅い夕飯を食べ始めた。



 アツアツのカレーライスにはふはふ言いながら食べていると、スマホから通話の着信音が鳴り、ビクっとする。


 また母さんか?と思いながら通知画面を見ると、姉ちゃんだったので、珍しいな?と思いつつカレーの皿を床に置いて、通話アイコンをタップした。



『もしもし?タイチ?』


「うん、どしたの姉ちゃん?」


『一応報告しとこうと思ってさ。 今日、チカちゃんがウチに来たよ』


「へー来たんだ。それで?」


 手紙が届いて読んでくれたのかな?

 でも、チカはあっさり受け入れると思ってたから、ちょっと意外。


『タイチくんと連絡が取れないんですけど、居ますか?って言うから、もう家出て一人暮らし始めてるよって教えといた』


「一応、そのことは手紙に書いておいたんだけどな。まだ届いてないのかなぁ」


『あぁ、手紙は読んだみたいよ。なんかごちゃごちゃ言ってたけど、面倒だったから、タイチから別れたって聞いてるしチカちゃんが二股してたことも聞いてるからね?もうタイチにもウチにも関わらないでね、さようならってインターホンガチャ切りしたら、直ぐに帰ったみたいよ』


「そっか、迷惑かけてごめん」


『気にすんな。元々はネーちゃんが切っ掛け作ったみたいなもんだし、とにかくタイチは嫌な事は早く忘れて、大学がんばんなよ!』


「うん、ありがと。頑張るよ」




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