43歳ー4

 2ヶ月後のダンジョン攻略に向けて、少しづつ準備を進めていく。


 そんな中でも、僕はダンジョン攻略に意欲が沸かなかった。ノエルさんのギフトの話を聞いたときからずっとだ。


 ギフト『分身』の効果は身体的な分身作るだけではない。身を分け、そして成長も分ける。単体で見れば、若返るのである。


 歳を取らない。経験を共有できるため分身後に訓練すれば、指数関数的に強くなる。その上、分身する直前までは体が成長するので、力も僕よりも強い。


 これは完全に、『不老』の、いや、上位互換である。


 ダンジョンを攻略する上で、僕がノエルさんよりも役に立つ点が何一つない。皆無である。


 こんなことなら、ダンジョンの攻略に参加なんかせず、ニナさんのお世話だけをしていたほうがいいのではないか。


 いや、料理や洗濯の技術さえ、あっという間にノエルさんが習得してしまうだろう。


 なんせ、現状のペースだと、13年で2倍である。13年後には4人、26年後には8人、39年後には16人。130年後には、2048人のノエルさんが、様々な技術や知識を得て、共有するのである。


 僕の体が成長しないため、力で上回ることもできず、技術や知識も負ける。


 僕は僕なりに、ダンジョンの攻略を目指して努力はしていた。ニナさんの力になりたかったのだ。だが、ニナさんの横にいるのにふさわしいのは、僕ではなくノエルさんだろう。


「アクト、ちょっとついてこい。ダンジョンの空気を吸おうぜ」


 ジメジメとした倉庫に座ってそんなことを考えていると、ニナさんに連れて行かれた。





「少し講義をしてやろう。最近は勉強の教師役はノエルばっかりで、あたしが教えることが少なくなってきたからな。レアだぞ」


「はあ。そうですか」


 ニナさんは木の枝で地面に文字を書く。


「テーマはギフトについてだ。分からないことが

も多いが、あたしなりの考えを教えよう」


 ニナさんはひたすらギフトの名前を列挙する。地面に書いて書いて書きまくる。十分ほど無言で手を動かしたあと、満足そうにこちらを見た。


「これらが現状知られているギフトだ。多いだろ。100個以上はある。まだ知られていないものもいくつもあるだろうね。自分のギフトを知らないまま死んでいく人もいるから、把握しきれない」


「面白いですね。便利そうなものから意味不明なものまでいろいろあるんだ」


 ざっと目を通すだけで、想像力が刺激されてワクワクする。


 『堅牢』とか『波動』なんかは強そう。『海老』とか、どんなギフトなんだろう。一瞬『不老』に似たギフトかと思ったが、エビだった。海老反りになっちゃうのかな。


「本題はここからだ。おそらくだが、同じ時代に2つ同じギフトは存在しない」


 ただの経験から来る推測だがな、と付け加える。ギフト自体が珍しいものなので、検証しきれないらしい。


「ノエルの『分身』は例外かな。あれはどちらも本体であって、いわば同一人物だからさ。同じ人のギフトは同じってだけだ。あれにはどちらかが死んでも問題なく生き続ける、ライフストックのような役割もある。ほんと、最強の能力だ」


 先程までの悩みを思いだす。せっかくニナさんの話で気を紛らわせてたのに。


「でも、ニナさんは僕の『不老』をレアギフトと言っていましたよね? 誰か一人しかなれないなら、すべてのギフトがレアではないですか?」


「アクトの『不老』やノエルの『分身』なんかは寿命を伸ばせるからさ。どっかの誰かギフトを持ったまま長生きするんだろうね。新しい人がギフトを授かることが少ないからレアギフトなんだよ。あたしの『転生』もだね」


「なるほど。回転率が悪いんですね」


「ただ、最終的には死んだ。最強に思える『分身』のギフトの前の持ち主も死んだ。どうしてだとおもう?」


「何でしょう? みんなで強敵に挑んで負けたとかですか?」


「それもあるかもな。でもあたしの予想は違う。『分身』の前任者はおそらく自殺で死んでいる

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る