43歳-1

 商談はうまくいったと考えていいだろう。リプティ商会へのカチコミもとい商談が、ニナさんが帰ってきておよそ一年後のことだった。商会はニナさんの話を信用したようだ。全面的に協力してくれるようになった。


 二年目にはノエルの入試勉強の終わりが近づき、王都の学園へ出願した。


 三年目。いよいよ受験。ノエルは緊張した様子で王都へ向かう。


 ニナさんが連れて行ったので、僕は珍しく拠点で一人、留守番をした。ニナさんたちがいなかった十年間を思い出す。


 結果は問題なく合格。後から聞いた話では、リプティ商会がかなり強引な根回しをしてくれていたらしく、名前を書くだけで受かる状況だったそうだ。緊張して損した。


 ノエルが学生をしている四年目から十年目までは、平凡な日々であった。ダンジョン攻略をしようにもニナさんの体が幼く、リスクが高い。


 ニナさんが十八歳になる頃には、背が前世を思い出すほど高くなっていたが、ニナさんからするとまだまだだそう。


「肉体の強さは22歳から32歳くらいまでが全盛期だね」とニナさんは語る。


 この十年間、僕は特にすることがなかったので、のんびりとダンジョンで採取をしたり、いろんな什宝を試したりしていた。唯一の仕事はニナさんのお世話である。





 十一年目、ノエルが学園から戻る。


 ノエルは年相応の立派なお姉さんになっていた。まあ年に数回はダンジョン攻略の拠点に帰ってきてたから、驚きはないけど。


 そうしてついに「ダンジョン攻略者養成学校(仮)」の始動である。「(仮)」となっているのは、未だ正式な学校ではないからだ。


 僕たちの学校は現状、一般の学生を採っていない。規模が小さく受け入れられる人数も少ないので、余裕がない。


 そのため、最初は少人数の奴隷を買い、教育することから始めることにした。


 贔屓の奴隷商会から、若くて体格のいい男性奴隷二人と中年女性の奴隷が一人。


 加えてパータさんはもう一人、とある女性を押し付けてきた。以前、ニナさんが出した什宝に夢中になっていたローブ姿の女性である。


「よ、よろしくお願いします! メイアと言います!」


 この女性は奴隷ではない。いわく、重度のダンジョンオタクで、什宝やダンジョン資源に目がないのだとか。


 リプティ商会で持て余していた人材らしく、ついでとばかりに押し付けてきた。ニナさんもオタク気質なので、気が合いそうだとは思う。


 そうして、少しずつ学校の運営をしていく体制が整いつつある。


 異変が起きたのは、十六年目。僕が43歳、ノエルは26歳の時だ。


 朝起きると、ノエルが『』していた。

 




「「ニナちゃん! アクトくん!」」


 高い声が響いた。なんだか、懐かしい気がする。


 ん? 声が反響しているような?


「ノエルさんどうかしましたか?」


 最近はダンジョン拠点が手狭になったので、少し離れた場所に建てた数軒の小屋で寝泊まりしている。


 朝食の用意をしていると、ノエルさんの助けを求めるような声がした。


「「アクトくん。ニナちゃんを連れてきてくれない?」」


 扉越しに会話する。


 困ったな。


 ニナさんは基本的に自由人なので、どこにいるか分からない。まだ寝ているかもしれないし、どこかに出掛けている可能性もある。


 ただ、食事の時間にはちゃんと来ることが多いので、そこで集まるのが手っ取り早いのだが。


「朝食には来ると思いますが、それまで待てませんか?」


「「そうね……それじゃあ、食事を1人前多く用意してくれない? 私、2食食べるわ」」

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