28歳-2
「そんな大きな商会にカチコミするんですか……?」
「まあ暴力は交渉が失敗したときだ。運がよければ血は流れないね」
「大惨事の予感しかしないです」
「安心しな。奴隷商人なんて他にもたくさんいる。手当たり次第行きゃいい。時間はいくらでもあるさ。なんのための不老だと思ってんだ」
「少なくとも、奴隷商人を手当たり次第訪ねるための不老ではないです」
そうこう話しているうちに僕たちは奴隷商の屋敷の前までたどり着いた。
豪華絢爛、というわけではなく、想像よりずっと質素な建物だ。言われなければ、町にある個人商店と区別がつかない。
「意外と地味ですね」
「いや、しっかりした商店さ。ちょっと見直したよ。これなら一軒目で成功しそうだ」
店内に入る。入口の脇には武器を下げた、用心棒といった風情の男が二人。
店内で構えていることから、商品を外敵から守るというよりむしろ、奴隷が暴れたとき鎮圧するために待機しているのだとわかる。
僕たちは見た目は12歳の少年と11歳の少女なので不安だったが、貴族の子供が奴隷を買いに来たと思ったのだろう。問題なく入店できた。付き添いの人がいないことを少し疑問に思っているようだ。
スーツを着込んだ中年の男性が店の奥、応接室へと案内してくれる。
ニナさんは勧められる前にソファに深く腰掛けると、男性に視線を向ける。
「商談があるんだ。回りくどい話はしない。ダンジョンの什宝売ってやるから、ダンジョン攻略に協力しろ」
ニナさんの唐突な物言いは、僕たち相手のときだけではないらしい。
「ダンジョン攻略? 何の話ですか? ここは奴隷商会ですよ?」
「あたしたちは独自のダンジョンを持っている。その利益をわけてやるから、リプティ商会はあたしたちを手伝えってんだ。これを見ろよ」
そう言ってニナさんは什宝を出す。いつぞやの、生ぬるい風を出す筒状の什宝である。
「これがうちのダンジョンの什宝だ。目利きが見たら、他のダンジョン産の什宝とは違うって一目で分かるだろう。事の重大さがわかったら、ボサボサしてないでとっとと一番偉いやつ連れてこい!」
什宝は一般に流通していない。教会と国がダンジョンを隠している以上、什宝の存在もまた、秘匿する必要があるからだろう。だがそうはいっても什宝は道具。使わなければ意味がないし、使う以上は人の耳にも入る。
庶民は知らないだろうが、少しくらい学があって鼻が利く者は、什宝やダンジョンの存在を知っている。そうして、什宝が莫大な利益を生みうるものだということも。
スーツの男性は自分一人では手に負えないと思ったのか、ドタバタと音を立てながら応接室から出ていった。
「ニナさんは乱暴ですね」
「いいんだよ。言っただろ、代わりはいくらでもいる。ダメそうだったら次行くだけだ」
次に行きたくないので、できればここで終わらせて欲しいです。そんなことを考えていると、スーツの男性が、二人連れて戻ってきた。
「パータ・リプティです。このリプティ商会の会長を務めています。以後お見知り置きを」
背の高い男性が丁寧に腰を折って挨拶する。丁寧に手入れされた白髪が腰下まで伸びている。折れそうなほど細く長い体も合わさって、人形のようだと思った。声色も単調で人間味がない。
「こっちは、うちで一番什宝に詳しいやつを連れてきただけなので、お気になさらず」
一緒に来たローブを羽織った女性は、ペコリと頭を下げ、そのままの勢いで机に置いた什宝触りだした。
「あはは、すみません。こいつ、什宝に目がなくてね。今度、もう少し礼儀を教えておきます」
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