27歳-4
「ニナさん、僕の戦闘はどうでしたか?」
戦利品の魔石を片手に、ニナさんのもとへと戻る。昔の僕と違うということを見せられただろうか。
「やるじゃん、アクト。なにその什宝。変なタンク担いでるとは思ったけど」
「ふふふ、十年間の修行の成果です」
やはりニナさんは什宝への食いつきがいい。もう少し僕を褒めてもいいと思うが、仕方がないので「高圧洗浄機」の説明をする。
「へ〜面白い。面白いが、ドデカワニ相手には使いづらいかな」
ドデカワニはダンジョンのボスだ。僕たちの目標はやはりボスの討伐である。
「ですよね。あんなに大きい相手だと、拘束するには威力が足りないです。炎の玉を消すにももっと水量が必要ですし」
「まあ、アクトが雑魚敵から自分を守れるようになっただけで充分さ。よくやったよ」
相変わらず心のこもってなさそうな褒め言葉だが、それでも僕は嬉しかった。
「アクトくんばっかり褒めてもらってずるい! 私もはやくニナちゃんの役に立ちたい」
ノエルさんがまた変なことを言っている。それだとまるで僕が、ニナさんに褒められたくて努力しているみたいではないか。
あれ? 違うよな?
「正直、ノエルは『分身』のギフトが効果を発揮するまでやることないんだよな。なにかやりたいことはあるか?」
「うーん」
少し考えて、照れたようにもじもじしながら言う。
「あのね。私、学校の先生になりたいの」
「ほー、先生ねぇ」
また急な話だ。先程の学校ごっこがよっぽど楽しかったのだろうか。
「ここまで来る旅の途中ね、ニナちゃんがこの世界のことをたくさん教えてくれたの。ニナちゃんは物知りで、本物の先生みたいで。私もいつか、自分の生徒にいろんなことを教えてみたい!」
「聞いてきたから教えただけだけどね」
「ニナさん何かと博識ですもんね」
「長く生きてるからな。何度も死んでもいるけど」
そう言いながらも、ニナさんは何か先のことを考えている様子。
「うん、まあそれもありか。やってみよう」
「やってみる?」
「おう。ダンジョン攻略のための学校を作る。ノエルにはそこで先生をしてもらおう」
拠点に帰って少しすると、ニナさんは僕とノエルを集めた。
「会議を始めるぞ~」
そう言ってニナさんが一枚の資料を配る。それは、「ダンジョン攻略者養成学校(仮)」の設立に関する企画書だった。
「この短時間で作ったんですか?」
「それほど詳しいこと書いてないけどね。あったほうがわかりやすいでしょ」
相変わらず仕事が早い。十年も拠点に帰ってなかったのだから、もう少しくつろげばばいいのに。
「最終的な目標は、学校を設立しダンジョン攻略を進めるための人材育成・技術研究をおこなうこと。そのためにすべきことは山ほどある。ノエルに勉強を教えることが最優先事項だな」
「ニナちゃん、この紙なんて書いてあるの?」
ノエルさんは奴隷だった期間が長いため、文字も読めない。教師になるためのハードルは高い。
「文字ぐらいすぐ読めるようになるから、まあ今は聞いとけ。ノエル」
「はーい」
「それで、ノエルに様々なことを学ばせるために、いずれノエルを王都の学校に入れたいと考えている」
王都の学校。話には聞いたことある。
僕たちの住んでいる国には王様がいて、その王様が住んでいる町が王都クシナガル。その町には、貴族や商人など、裕福な子供だけが入れる学校があるらしい。
「王都の学校なんて、入学できるんですか?」
「今のままだとダメダメだね。王都の学校の入学に必要なのが、金・コネ・ノエルの学力。それから、無事に卒業できたとしても、ダンジョン攻略者養成学校の設立に必要なのが金・場所・生徒。今のところ全部ないな」
「道のりは遠いですね」
「まああたしもアクトも時間はいくらでもあるんだ。目標は20年以内ってとこかな」
そんな先の話をしていたのか。いや、ダンジョンの攻略のためには、それが一番の近道なのかもしれない。あ、そうだ。
「ニナさん、僕も王都の学校に行ってみたいです」
「アクトはダメだ。ここであたしとダンジョン攻略をしてもらう。飯作ってくれないと」
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