27歳-3

「これからノエルのギフト『分身』についての講義を始める」


「ニナ先生! 質問したいです!」


「ノエル学生、まだ何も喋ってません。講義を聞き終わってから質問しなさい」


「はーい!」


 ノエルさんがはしゃいでいる。こうしてみると、幼い子供二人がごっこ遊びしているようにしか見えない。ニナさんもノリがいい。


「『分身』はその名の通り、自分の分身を作るギフトだ。いや、私の予想では分身が能力かな」


「ニナ先生! どうやって分身するんですか! 分身したいです!」


「よーしノエル学生、私が指示する通りやってみたまえ」


 ノエルさんはニナさんの指示に従って、右手を頭の上に置き、左手は顎の下、首をかしげ、左足をクロスさせる。お猿さんのポーズだ。


「その状態で、分身出てこい、と念じてみろ」


「むー、えいやーーー!」


 何も起こらない。


「ニナ先生、ダメです何も起こりません!」


「おそらくこのギフトは、時間経過で勝手に分身が出来る能力だな。ほとんどのギフトは自分じゃ操作できない。あたしたちの意志とは無関係なものなんだ」


「ではなんでこんな変なポーズさせたんですか!?」


 ノエルさんが文句を言うが、ニナさんは検証できたためか満足そうに頷いている。


「いつ分身するかわからないから、また時間をかけて調べるしかないね」


「え〜。つまんないの」


「まあ時間はたっぷりあるさ。あたしの予想ではね。それより、アクトの出番だぞ」


 ニナさんがそういうと、ダンジョンの森の中から一体のボッチオオカミが現れた。


 十年の成長を見せるときがきた。急いで什宝「保離袋ぽりぶくろ」を被った。


 



 ニナさんがいない十年間、僕は倉庫にある什宝を手あたり次第実験した。


 そのほとんどが起動することすらできなかった。動いたものも、生ぬるい風の出てくる筒やいろんな色で光る球、明らかに武器の形をしているのに野菜すら切れない刀など、なんの役に立つのかわからないものばかり。


 動かないものには、何か条件があるのではないか。実験の環境を、気温や湿度などを変えながら試してみる。


 そうして六年目の夏、偶然使い方のわかったとある什宝は、武器となりうるものであった。


 高速で水を打ち出す什宝、「高圧洗浄機」。


 正確には、「高速圧殺一洗拭浄機関銃こうそくあっさついっせんしょくじょうきかんじゅう」である。略して高圧洗浄機だ。ニナさんがいなかったので、僕が名前を付けた。いい名前だと思う。


「グルルルル」

 

 ボッチオオカミは突然姿を消した僕を探しているようだ。急いで移動する。


 保離袋は、被っている間、周囲から見えなくなるなる効果がある。この什宝をはじめて使ったときは、最強だと思った。


 しかし、使えばわかる弱点も多い。


 まず、手や足を外に出すとその部分が外から見えてしまうため、満足に動けない。中でできる動きは限られていて、小さな歩幅で早歩きぐらいはできるが、戦闘行為は難しい。


 さらに、周りから隠せるのは視覚だけで、音や匂いは誤魔化せない。ボッチオオカミに近づくと匂いですぐにバレるし、離れていても時間が立つと気がつかれるだろう。

 

 また、透明なうちはボッチオオカミのヘイトを稼げていないため、このままではニナさんたちに危険が及ぶ。


 だが、最初の一撃を一方的にぶち込めるということは、これらの弱点を補っても余りあるほどの強みである。


 迅速に敵の横側へ移動し、ポリ袋の中で膝立ちをして、高圧洗浄機を構える。


「くらえ!」


 さっと保離袋を脱ぎ、ボッチオオカミの横腹を狙って撃つ。


 この什宝には貫通能力はない。水の勢いで敵を抑え込むのが主な役割となる。


 高圧洗浄機は後ろにあるホースを液体の中につけておかなければ起動ができない。これが、使用方法の発見に遅れた理由でもある。いまは背中に取り付けている簡易的なタンクに水を満たし、弾としている。満タンで十秒程度の放水といったところ。それはそのまま、戦闘のタイムリミットとなる。


 ちなみに、このタンクは水場があればどこでも補充ができるし、帰り道では採取した素材を入れておくこともできる。意外と使い勝手がいい。


 放水でボッチオオカミを押さえつけながら近づく。体の傍までくると、右手で放水を続けながら、左足で頭を押さえ、空いた左腕でオオカミの胸にナイフを突き刺した。

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