17歳-6

「おーっしアクト。それじゃあ、魔石の回収」


 ニナさんが楽しそうに言う。


「ボッチオオカミの心臓をナイフで開くんだ。ほらほら! さっさとやりな。ファーマーの仕事だぞ!」


「わかってますよ」


 急かしてくる。妙にテンションが高いのが気になるな。戦闘を終えて、気分が高揚しているのかもしれない。


 ニナさんが言うには、魔物の心臓には、魔石と呼ばれる核があるらしい。そしてそれは什宝を使うときのエネルギー源となるのだそうだ。


 そう聞いても、よくわからないな。イメージがしづらい。


 ニナさんの説明もあやふやだった。なにぶんダンジョンには謎だらけだ。ダンジョンでとれる魔石もについても例外ではない。まだまだ、研究途中だそうだ。


 持ってきたナイフでボッチオオカミの腹を割く。他の内臓を避け、心臓を探る。すると、予想外の光景が目に入った。


「……どうなってるんですか、これ?」


「あー、つまんないの。もっと驚くと思ったのに」


 なるほど。ニナさんは僕の反応を楽しみにして、ソワソワしていたのか。


 たしかに驚いた。


 とどめを刺したはずの魔物の心臓が、力強く脈打っていたのだ。


「この魔物、まだ生きてるんですか? いまにも起き上がりそうで怖いんですけど」


「いや、ちゃんととどめを刺したから、動くことはないと思う。今までの経験上はだけど」


「含みのある言い方ですね。逃げ出したいです」


 ナイフを握る手に力がこもる。


「いや~、ダンジョンって不思議だよな〜。それ、体から切り離しても動き続けるんだぜ」


 ニナさんはやはり楽しそうである。ダンジョンの奇妙さを共有したかったみたいだ。


「この前、心臓を切り離して、いつまで動いてるか計ってみたんだ。1時間、2時間と経って、それでもピンピンしてる。仕方がないから、地下室まで持ち帰ってな」

 

「延長戦ですね」


「ああ。心臓が止まるまで、一日でも、一週間でも、一年でも付き合ってやる気でいたんだ。ところがダンジョンから出た途端に、萎れて動かなくなった」


「さすがに時間が経ちすぎたんですかね?」


「いやそれが、他の魔物で試してみても、ダンジョンから出た途端に心臓が動かなくなったんだ。あたしは、心臓よりもダンジョンの方に何らかの要因があるんじゃないかと睨んでる」


「なるほど。ダンジョンの中にいる限り心臓が動き続けるってことですか?」


「その可能性が高い。まあ、心臓だけ動き続けても脅威はないけどな。ほら、切り開いて魔石を取り出せ」


 ドクドクと脈打つ心臓を左手で抑え、ナイフの歯を通す。


 中から、薄紫色の小石が出てきた。僕のファーマーとしての初めての役割は、あっけなく終わった。




 

 その後、すぐに薬草の採取も終えて、拠点へと帰宅した。次の日もダンジョンに潜り、薬草の採取をする。帰宅。ダンジョン。採取。帰宅。ダンジョン、採取、帰宅。


 気がつくと、僕たちは、薬草の採取だけに一ヶ月を費やした。倉庫に溢れんばかりの薬草の山が出来上がっている。


「薬草、こんなに要ります? ポーションに加工したとしても、使い切る前に悪くなっちゃいますよ」


「ふむ。まあ、こんだけあればいいかな。明日は一日かけてポーションを作るぞ。全部ポーションにする。そして明後日、ダンジョンの本格的な攻略をすることにしよう。魔物のボスを倒すんだ」


「ボス、ですか?」


「ああ。このダンジョンにはボスがいる。これまでの戦績は、0勝12敗だ。あたしはすでにそいつに、12回殺されてる。手強いぞ」

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