17歳-5

 翌日、ニナさんとのダンジョン攻略が始まった。今日の目標は薬草の採取である。戦士のニナさんとファーマーの僕、二人で挑む。


 ファーマーという役割は聞いたことがなかった。ニナさんが言うには、ダンジョンにて薬草や鉱石の採取、手に入った什宝などを運ぶ荷物持ち。そして逃げ帰るときのサポートがファーマーの仕事らしい。


 全然かっこよくない。


「いやぁ、助かるよ。やっぱり仲間がいると違うね」


 これまでニナさんは一人でダンジョンに潜っていたらしく、敵と戦うのも、荷物を運ぶのも一人で行っていたそうだ。


 そのため、たとえ珍しいモノを見つけても、戦闘が始まると一時的に手放さなければならない。形勢が悪いとそのまま手ぶらで逃げ帰ることも少なくなかったのだとか。


「でもこれって、『不老』である必要あったんですか?」


「んー、今のところないね」


「ですよね」


「まあ直にわかるさ。そうだな、数十年以内には」


 説明してくればいいのに。ニナさんはいつも説明不足だ。


 初めて潜ったダンジョンは、想像とは違っていた。


 地下にあるダンジョンなので、窮屈な石でできた廊下が延々と続く迷宮を想像していたが、実際はむしろ屋外のような場所だった。


 見渡す限りの広大な森。あの人工的な地下室である拠点から、さらに地下に行った先に、空と大地が広がる世界があるなんて。


 頭が混乱しそうだ。


 持ち物は水筒とシャベル。それからナイフが一本と、持ち帰る荷物を入れるためのリュック。


 村を追放されたときとほとんど変わらない。ニナさんは僕に戦闘をさせる気がないらしく、薬草を採取しやすいようにとシャベルをもつよう指示した。ウド村からもってきた、小柄な僕に合わせたサイズのシャベルだ。

 

「ちゃんとついてこれてるか〜?」


「はい。大丈夫です。」


 ニナさんを先頭にして、ピッタリ離れないように後ろを歩く。これはニナさんと事前に決めていたことだ。


 ダンジョンを進むに当たって、ニナさんは僕にいくつかのルールを与えた。


一つ、ニナさんの後ろを歩き、何があっても戦闘に手を出さないこと。


一つ、採取をするときは、ニナさんの指示を待ってから行うこと。


一つ、ニナさんが「撤退」と叫んだら、事前に渡された什宝を使って一目散に拠点まで帰ること。


一つ、撤退後は拠点の机の上にある置き手紙を確認すること。


……僕の思ってたダンジョン攻略とだいぶ違う気がするが、まだまだ始まったばかりだ。徐々に力をつけていけばいいと、自分に言い聞かせる。


 ニナさんはダンジョンを歩き慣れている様子だった。雑談をしながらも、視線はずっと動かして周囲を警戒している。


「魔物だ。ボッチオオカミが一匹」


 ダンジョンには魔物が住んでいる。「ボッチオオカミ」は魔物だ。


 ちなみに名前はニナさんが命名した。ほとんどの場合一匹で出てくる、狼のような見た目の魔物だからだそう。やはりセンスが独特だと思う。


「アクトは下がってろ。すぐ倒す」


 そう言うと、ニナさんはボッチオオカミに対して踏みこんだ。


 剣を持った腕を引き、低い姿勢から斜め前へと突き上げるようにタックルする。体格差を活かした攻撃だ。


 ボッチオオカミは反撃する間もなく吹き飛ばされ、あっさりと大剣で止めをさされる。


「お見事です。ニナさん、ケガはありませんか?」


「ああ。大丈夫」


「ずいぶん派手な戦い方ですね。狼相手にタックルなんて、する必要あったんですか?」


「ボッチオオカミは動きが速いからな。大剣じゃ少々当てづらいんだ。」


 そういうものなのか。それにしても、せっかく大剣を持っているのだから、リーチで勝負した方が良さそうだが。爪や牙が武器の狼にタックルなんて。


 そんなことを考えていると、ニナさんに見抜かれてしまった。


「納得いかないようだな」


「いえ。ただ、もう少し身体を大切にしてほしいと思いまして」


「これが一番安全な方法なんだ。アクト、ダンジョンでの戦闘は、時間をかけないこと。これが最優先だ。」


「そうなんですか?」


「戦闘を長引かせすぎると、他の魔物がよってくる事があるんだ。一対一の戦闘ならば、どうとでもなる。敵わなければ最悪、走って逃げればいい。しかし、複数が相手だと途端に危険性が跳ね上がる。」


「でもボッチオオカミはボッチですよ?仲間を呼ぶことがあるんですか?」


「ああ、ボッチオオカミはそのリスクは低いな。ただし、物音につられて同種以外の魔物が寄ってくることもある。時間をかけずに倒すのが一番だ。」


 そういったあと、ニナさんが微笑んだ。


「まあ、これは一人のときの話だ。いつかアクトが強くなって、あたしをサポートしてくれるなら、もう少し違ったやり方で戦えるかもな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る