17歳-4
「まあ、準備はこんなもんかな。おい! アクト、来い!」
「はーい。今行きます」
夕食の下ごしらえの手を止めて、ニナさんのもとへむかう。
「まあ座れよ」
「どうしたんですか?あらたまって」
「明日からダンジョン攻略を始める。今からその説明を行う」
「はあ……?ダンジョン?」
ニナさんの話題はいつも唐突だ。何の話をしているかわからない。
「ダンジョンって、おとぎ話とかに出てくる、あのダンジョンですか?」
僕がそう言うと、ニナさんは一度きょとんとした顔をして、笑いだした。
「そういえばアクトには言ってなかったな、あたしたちが住むこの地下室、ダンジョンの入口だぞ。奥の部屋の隅に扉があっただろ。あそこからダンジョンに入るんだ」
ダンジョン。おとぎ話のなかだけのものだと思っていた。ニナさんによると、世界にはダンジョンと呼ばれる地下迷宮がいくつかあるそうだ。
ただし、僕が考えていた、金銀財宝を求めて探検する場所とは少し違うらしい。
「アクトが考えてるほど都合のいい場所ではないよ。あんた、意外と金に目がないよな」
「そうなんですね。残念です。貧乏で村を追放されましたから。お金は大切ですよ」
「まあ、少しは一般的な宝石なんかも出るがな。多くの場合は意味不明な、使い方もわからないヘンテコな装置や物体が手に入るだけだ」
非常に残念だ。貧しい暮らしのなかで小さいころから、ダンジョンをみつけて大金持ちになる妄想をしてきたのだ。
「そんな気を落とすなよ。ダンジョンでは、金銀財宝なんざよりずっと価値のあるものが手に入るんだ。あたしはそれらを
「へぇ。什宝」
「ああ。この部屋にもいくつかあるし、アクトも使ったことがあるぞ。思い返してみろ」
たしかに、不思議な道具はいくつかあった。
「あ、このあいだ僕のギフトを調べた箱も什宝の一つですか」
「そうだな。あれは鑑定箱だ」
見たこともない道具であったが、田舎者だから知らないだけかとスルーしていた。
「ちなみにおまえが気に入ってる、ごみを吸い取ってくれる機械も什宝だ。
変な名前だ。ニナさんは独特な感性をしている。しかし、不思議としっくりくる気もした。
「まあこれら使い方のわかっている什宝は少数で、ほとんどが何に使うかわかっていないんだけどな。倉庫にがらくたがいっぱいあっただろ? あれは全部什宝だ」
僕が寝ている倉庫に、やたら物がいっぱいあったのはそういうことだったのか。
「でも、ダンジョンが本当にあるなんて、聞いたことありませんよ?」
「ああ、ほとんどのダンジョンは国と教会が占有して、存在自体を隠しているからな。ダンジョンと什宝の研究は莫大な利益の可能性を秘めている」
ニナさんは僕の耳元に口を近づけてこうささやく。
「ダンジョンを攻略して什宝をたくさん手に入れたら、あんたもあたしも大金持ちだぜ」
そうして僕もニナさんとともにダンジョン攻略をすることに決まった。それから、ニナさんはダンジョンについての基本的なことを教えてくれた。
「ところでニナさん、なんでそんなに詳しいんですか?」
「昔、教会の研究所にちょっとした縁があってな」
ニナさんの表情に一瞬影が差した気がした。
「まあ、今はフリーの研究者だ。無職ともいえるがな。アクト、ここにダンジョンがあることは誰にもおしえるなよ。このダンジョンの入口は教会にはしられていない。あたしが独自にみつけたものだ。勝手に研究してるなんてばれたら死刑は確実だ」
突然恐ろしいことをいう。
「誰にもいいません。ですが、ふたりだけでダンジョンの攻略なんでてきるんですか? それに、僕は力も弱いから戦力になりませんよ?」
おとぎ話のダンジョンは、パーティを組んで攻略するものだった。前衛の重装騎士に戦士、後衛の魔法使いにヒーラー。ダンジョン内を案内するレンジャー。
僕にはどれもできそうにない。体格的に前衛なんてできないし、治療もできない。魔法なんてそもそもおとぎ話だけのものだ。(ダンジョン自体がおとぎ話のはずだったけど)
ならばレンジャーかな。レンジャーだけは、練習すればまだ可能性がある。うん。レンジャーがいいな。パーティを導く頼れる男になりたい。
「あの!僕はレンジャーがやりた」
「アクトには
こうして、僕たちは戦士とファーマーの二人パーティでダンジョンにもぐることとなった。
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