17歳-7

 ニナさんはすでに12回殺されている。相変わらず、よくわからないことを言う人だ。詳しく聞きたかったが、ポーション作りの準備に追われあっという間に時間がすぎて、気がつくとボス攻略の日になってしまった。


「よーし! ダンジョンボスを倒すにふさわしい、いい天気だ!」


 ちなみに、一ヶ月間ダンジョンを潜ったが、今のところダンジョンはいつも同じ天気だ。多分、ニナさんのジョークだろう。


「さてアクト、ボスと戦う前に、確認だ。あんたの役職は?」


「ファーマーです」


「あんたの攻撃手段は?」


「ありません」


「あたしが撤退って言ったときは?」


「什宝を使ってすぐに逃げます」


「よろしい」


 今回のボス攻略は、僕は攻撃に参加しない。僕がすることは、ファーマーらしく荷物持ちである。


 戦闘の流れはこうだ。ニナさんが戦う。ニナさんが傷を負う。ニナさんにポーションを渡す。ニナさんが回復する。この繰り返し。


 ポーションの量が量なだけに、ニナさん一人だと持ちきれない。そのための運搬係が僕の仕事である。


 一か月も薬草を集めただけあって、ポーションだけでもなかなかの重量だ。


「逃げるための什宝もちゃんと持ってるか?」


「ええ。もちろん。でもこんな強力な什宝、ほんとに僕が使っていいんですか?」


「ああ。あたしじゃ使いこなせないからな」


 什宝「保離袋ぽりぶくろ」は、頭から被ると透明になって、周りから見えなくなるという、破格の性能を持った什宝である。


 こんないいものがあるならば、ニナさんが装備すればいいと思うが、実はこの什宝は、サイズがあまり大きくない。


 小柄な僕が被ればギリギリ体全体を覆えるが、ニナさんが使っても上半身を隠すのが精一杯だ。それだと意味がないので、僕に渡すまで倉庫の肥やしになっていたそうである。


 保離袋から手を出すとそこが見えてしまうため、採取にも使えない。まさに、逃げることに特化した什宝だ。


「最後にもう一度確認だ。撤退って言ったら、すぐに逃げるんだぞ。あたしは絶対死なない。生き帰る秘策がある。ただし、この秘策はあたし一人でしか使えない。あたしがピンチだからって、逃げずにそこに居られたら、かえって足手まといだからな」


「わかりました。わかりましたよ。でもそろそろ、その秘策とやらを教えてくれてもいいのでは?」


「ふふふ、秘策は秘密だから秘策なんだ。それに、いっただろ? あたしは12回ボスにやられても、今生きている。これが証拠だ」


 そうして話しているうちに、ダンジョンのボスがいる場所へとたどり着いた。




 ボスがいる場所は、ダンジョンの他の場所と変わらない。木がやや少なく、ひらけていることを除けば、変哲のないダンジョンの一部である。


 では、何故ボスに挑むのか。理由は2つある。


 一つは、ボスモンスターが同じ場所から動かないこと。


 普通、ダンジョンの魔物は、ダンジョンの中を徘徊している。獲物を探しているのか、それとも他に何か理由があるのかは不明だ。


 しかし、ボスモンスターは一箇所から動かない。そのためボスモンスターは何かを守っているのではないかとニナさんは考えた。


 ちなみに、今回のボス攻略はこの特性を活かした戦法を取る。僕はボスとは離れた場所にいて、安全に待機する予定だ。ニナさんにポーションを渡すときだけしかボスに近づかない。


 もう一つは、ボスがいる場所以外は、すでにニナさんが探索し尽くしたからである。


 ニナさんは几帳面に地図を書いているが、その地図はボスの先以外すべて埋まったらしい。あとはダンジョンボスを倒し、その先に何があるかを確認するだけなのだ。



「ニナさん、お気をつけて」


「ボスに挑むのは久しぶりだ。腕が鳴るよ。今日こそとっちめてやるさ」


 ボスのもとへ向かうニナさんの後ろ姿は、少し震えているように見えた。

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