第22話 閻魔秘書試験・実技試験(後編)

 

「彼女の娘さん?」

 横にいた救急隊員は、声を上げたみやこに声をかけた。

 何も言えなくなっているみやこに代わり、救急隊員は美紗子の顔を見た。

「…彼女の娘さんです。私は彼女の友人です、一緒に病院へ…」

「…そうしてください。

 娘さん一人では難しそうですし」

「…わかりました」

 それから救急車の中では、誰一人会話をしなかった。

 

「…付き添いご苦労様です。

 少しお話を…」

 すぐに近くの病院に着くと、看護師と思しき女性が声をかけてきた。

「…あの方の娘さんですね…お母さんのお名前は…?」

「…みやこちゃん、ママの名前は」

 看護師の声に、何も言えないでいるみやこに、美紗子が声をかけた。

「…ちはら…みつこ」

「ちはらみつこさんね…名前だけわかればいいわ。

 それで…あなたは彼女とはどんな?」

 そう言って看護師は美紗子に声をかける。

「以前あの公園で知り合って…友人です」

「そう…けどよかったわ。

 この子だけだと何も分からずに、あの公園でずっとお母さん待ってしまったでしょう。

 あなたがいてくれてよかったわ」

 看護師はそう言って優しく微笑んだ。

「…いえ…で、彼女は…?」

「え、ああ、大丈夫よ。

 彼女、気を失ってるだけだから」

「…へ?」

 どう見ても事故にあって、倒れている母親を見て、ショックを受けている娘の前で、こともなげに看護師は答えた。

「車がすぐ隣の電信柱に突っ込んでしまってね。

 それを目の前で見て気絶しちゃったの…彼女には傷一つないわ」

 そう言って看護師は笑った。

 ついでに車の運転士も大したケガではないと聞かされ、車への損傷以外、大きな問題もなく済んだようである。

「…ママ、大丈夫なの?」

「うん、大丈夫よ。

 目が覚めれば、話すこともできるわ」

「…みやこちゃん、それまで、待ってようか…あ、売店でアイスだべよ?」

 美紗子のその提案に、みやこはうなずいてようやく笑った。

 

 それからしばらくして、母親である彼女が目を覚ました。

「ごめんなさい!ケガ一つないのに気絶してしまって!」

「大丈夫ですよ、みやこちゃんも無事連れてこれましたし」

 そう言って美紗子は笑った。

「…では私はこれで…」

「あの…また、会えますよね?」

 帰ろうとした美紗子を彼女が呼び止めた。

 非常に不安そうな顔をしていた。

「…会えますよ…きっとね」

 そう言って美紗子は笑った。

 そして、病室のドアをくぐると、見覚えのある徳の間の前にいた。

 

「…あ」

「…」

 美紗子が徳の間から出てくると、『都の閻魔様』が仁王立ちしていた。

 そしてレシートを渡す。

「…上級の徳は積めたわ。

 試験結果は追って連絡します」

 『都の閻魔様』はそう言うと、厳しい顔を緩めた。

「…筆記試験さえ問題なければ、合格ですね」

「…ありがとう、ございました…」

 丁寧に頭を下げ、美紗子は徳の間を後にした。

 

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