第21話 閻魔秘書試験 実技(前編)

 

「では説明します。

 午後の実技試験は、徳の部屋で上級の徳を積んでいただきます」

 試験官らしき閻魔が数人の閻魔秘書受験者に説明をしている。

「では、神原美紗子さん。

 あなたの担当閻魔はこの方です」

 そういうと、見覚えのある閻魔様が目の前に立った。

「…行きますよ」

 とりあえず目で「しゃべらないで」と言って、美紗子の前を歩き始めた。

 ほかの試験官がいなくなると、美紗子はつぶやいた。

「…『都さんの閻魔様』…?」

「…その言い方はやめてほしいわね…都の件であちらの閻魔に…そしてあなたにも借りがあったからね。

 美紗子さんの試験官は私が立候補したわ。

 あなたも知ってる人が試験官なら、多少緊張は解けるでしょ」

「…はい、ありがとうございます…」

 言い出したのは閻魔様なのか、『都の閻魔様』なのか…確かに試験官とは言え知った顔がいれば美紗子も安心する。

 

「徳の部屋…?」

「ええ、あなたがいつも使っている徳の部屋です。

 こちらの上級の部屋での徳を積む、これが合格の条件です。

 以上、試験開始」

「…神原美紗子、入ります」

 ガチャリ。

 数日前、あれだけ重かった上級の扉は、弥里のという通り、中級や初級と同じような重さの扉であった。

 そして意を決して、美紗子は中へと入っていった。

 

「…」

 場所は、最初に美紗子が初級の部屋で徳を積んだ時と同じ公園のようだ。

「…やっぱり」

 そこには、最初にお財布を一緒に探したあの女性が子供と一緒に遊んでいた。

「…よく会いますね」

「あぁ、あの時の…先日もありがとうございました」

「いえ、無事に旦那さんとは会えました?」

「ええ、もちろん…そんなにわかりにくいものじゃないだろ?と言われてしまいましたけど」

「そうですね…ところで」

 美紗子は、話しながら女性と一緒にいる子供を見た。

「え、ああ、うちの長女よ」

「かわいいですね…お名前は?」

「…みやこ」

「みやこちゃんか、かわいいねぇ」

 そう言って美紗子は頭をなでる。

「…あ、マズイ!」

 美紗子とみやこが挨拶していると、女性がつぶやいた。

「あの…申し訳ないんですけど、少しこの子見ててくれないかしら?

 すぐそこの銀行行ってこないといけないの」

「え、あ、はい…みやこちゃんもそれで大丈夫?」

 みやこが頷くと、女性は『ありがとう』と言って公園から走り出した。

 どうやら上級の徳は、子守のようだった。

「さてみやこちゃん、何して遊ぼうか?」

「滑り台…」

「あ、いいよ、行こう」

 そう言って、みやこを連れて、美紗子は滑り台に向かっていった。

 その時…。

 

 キキキキ、ドシン!

 

 近くで大きな音がした。

「事故だ!! 警察に連絡を!!」

 近くにいた人が騒ぎ出した。

 何か嫌な予感がした美紗子はみやこに伝える。

「…みやこちゃん、行ってみよう」

 無言でみやこは頷いた。

 

 事故の現場は公園のすぐ近くだった。

 そして車から少し離れたところに、倒れていたのは…。

「ママ!!」

 果たして、あの女性であった。

 

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