第5章 閻魔秘書試験

第19話 秘書試験の内容

 

  19.閻魔秘書試験の内容

 

「…しっかし、閻魔ちゃんもなかなか酷なことを言い出すもんだねぇ…」

 翌日から、美紗子の試験勉強が始まる…とはいえ、閻魔様、白河はもちろん、弥里もすでに勉強を始めていたらしく、三人の家庭教師から教わる美紗子の閻魔秘書試験の勉強は順調だった。

 ただ一人、都だけは、若干不満そうである。

「何でですか、都さん。

 そこまで難しい試験じゃないですよ」

「…だぁってさぁ、それって美紗子が天国行っちゃって閻魔ちゃんが美紗子独り占めするだけじゃん…アタシだけ得なことがないんだもーん」

 都が不満そうに、勉強している美紗子の頬をつつく。

「いやいや、都さん…閻魔様から何か連絡があれば私がその伝書鳩になってここに来ますよ?

 それに、閻魔様執務室からこの煉獄荘は近いし…いつでも来れますって」

「…約束よ?

 美紗子の本命は閻魔ちゃんかもしれないけど…アタシの本命は美紗子だかんね?」

 そういえば、都が殻を破った瞬間、そこにいたのが美紗子だったので、都は美紗子を母親のように思っているようである。

「…ありがとう、都さん」

「…もう、言わせないでよね」

 さすがの都が少し照れながら答えた。

 

 さて、そんな弥里と美紗子が受ける閻魔秘書試験は以下のような要綱である。

 ・閻魔秘書試験受験資格(死者出身者):徳が一定以上

 ・試験方法:①筆記試験、②徳の間での『上級』で徳獲得(現世で上級相当の徳を積んだと認められるものは免除)

 『都の閻魔様』から認められた美紗子が、現在秘書合格に必要な要件は、筆記試験の合格、および徳の間の上級獲得である。

 弥里は現世で上級相当の徳を積んでいるため筆記試験だけなのに対し、美紗子には徳の間の上級が試験項目に加えられている。

 筆記試験はそこまで難しいものではなく、やはり上級の徳獲得がネックになる。

 しかし、美紗子はいつも通り中級と初級の徳の部屋でのみ修行を積んでいた。

 今や中級には慣れ、中級の徳を積むのが苦ではなくなっているが、美紗子は上級にはどうしても入れなかった。

「…」

 徳の間の前で、美紗子はいつも通り中級の徳を獲得し、帰ろうとしたときに美紗子はふと上級の部屋の前で立ち止まる。

 その扉は中級や初級と同じものなのに、まるで鋼鉄の開かずの扉のように、そして果てしなく大きな扉のように感じていた。

 上級の徳の間の徳獲得が試験項目になっても、その気持ちは変わることなく、美紗子に重くのしかかっていた。

 

「さっさと練習しちゃえばいいじゃん。

 扉の重さなんてかわんないって」

「…そうはいっても…」

 美紗子がその話を都にすると一蹴された。

 最も、弥里同様『現世で上級の徳を積んだと認められる』という資格のある上、一流大学出身の都がもし閻魔秘書試験を受けても、簡単に資格を得られるだろう。

「練習なんだからいいじゃない。

 それに、秘書試験にしたって1回しか受験できないわけじゃないしさぁ」

「…そう、なんだけどね」

 確かに、閻魔秘書資格試験は1度しか受験できないわけではない。

 しかし、閻魔試験合格間違いなしの白河、秘書試験合格はほぼ約束された弥里が独立するにもかかわらず、閻魔様の秘書候補の自分だけが秘書試験合格できないと自分だけでなく、閻魔様の沽券にもかかわる。

 

 そうこうするうち、筆記試験の勉強のみを重ねて、試験の前日になってしまった。

 徳の間から煉獄荘の自分の部屋に戻ると、美紗子はため息をついた。

 今日の徳の部屋では、上級に挑戦する、と意気込んでいたものの、練習してからにしようと中級に一度入ってしまうと、やはり上級には入りなおせなかった。

 仕方なく、図書室で筆記試験の勉強だけをして、美紗子は煉獄荘に戻ることにした。

 

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