第18話 これからのこと
「私と、これからもずっと一緒にいてください!」
「…閻魔様?」
「…私、そろそろ、言わなければいけないと思っていたんです」
閻魔様は真面目な顔になる。
美紗子は驚いたような顔で閻魔様を見る。
「美紗子さん…白河さんがなぜ、煉獄荘の管理を都さんにお願いしたか、わかりますか?」
「…何か、勉強することがある、と…」
「その通りです。
それともう一つ…白河さんは地蔵出身の閻魔秘書、というのはご存知ですか?」
「…いえ…?」
何を言い出すんだろう、と美紗子は閻魔様に先を促した。
閻魔になるには、地蔵出身者の中で、閻魔秘書として勉強し、担当閻魔に推薦してもらって閻魔に昇格するのが一般的である。
それに対し、閻魔秘書は、閻魔候補の地蔵出身者だけでなく、閻魔に気に入られた死者もなることができる。
前者が閻魔になるまでの一時的な秘書であるのに対し、後者は閻魔が任を解かない限り秘書として務めることができる。
現在白河は前者で、閻魔になるための修行として閻魔秘書をやっている。
「私、秘書の成り手がずっといなかったんです。
…地蔵時代の功績を評価していただいて、秘書経験なしで閻魔になったので、秘書にしたい地蔵もいませんでしたし、まして死者とのつながりもありませんでした。
そんな中で、仕方なく私のところに来てくれたのが白河さんでした」
「…」
「白河さんは非常に優秀で、とっくに閻魔になっていいのに、私の閻魔秘書の後釜が見つからずダラダラと秘書をお願いしてしまいました。
自分の秘書候補はとっくに見つけているのに」
「…もしかして」
白河の秘書候補、と言われて脇で寝てしまっている快活な女性の寝顔を見た。
「ええ、天野さんです。
白河さんは、天野さんを非常に気に入っていて、閻魔になる際に秘書に、とせがまれて、お子さんを見守りたいという天野さんの利害とも一致して、天野さんは煉獄荘の住人になりました」
「…そういうことだったんですね」
徳がたまるほどたまっていた弥里が天国に行かず、煉獄荘にすんでいた理由が分かった。
「白河さんには閻魔になる準備が整い、弥里さんの娘さんも間もなくこちらにやってきます」
「…そうですね」
「すると一つ、問題が起きます」
「…それは?」
「…私の秘書、です」
そういえば、と美紗子が思い直した。
「…で、え、あ、え、…えと…」
言いよどんでいる美紗子をしり目に、閻魔様は話を続ける。
「死者から秘書になるには、徳の数と、秘書試験の合格が必要です。
試験はそこまで難しいものではありません…白河さんと私が教えれば十分学習できます。
そしてもう一つの問題の、徳にもめどが立ちました」
「あ」
『都の閻魔様』、そういえば彼女が大量の徳を美紗子に与えていた。
「そう、地原さんをヒキコモリから救ったあの徳です。
あれで、閻魔秘書受験資格に近づき、それからも徳の間で積んだ徳で、先日受験資格が得られました…あとは美紗子さんのやる気と、試験だけです…。
…美紗子さん、どうでしょう…秘書になって私を補佐してはいただけませんでしょうか」
閻魔様は一気にそこまでまくしたてた。
「…徳、試験…閻魔秘書…」
そして美紗子は、それを一つ一つ確認するかのように口に出していた。
そして答えた。
「…閻魔様…試験勉強、見てくださいね?」
「…美紗子さん、ありがとう…これで…」
その時、閻魔様の頬に水滴が伝った。
「…あ、あれ…なんで…なんででしょう…あっ…」
その姿を見て、美紗子は閻魔様を抱きしめた。
「…好きなだけ、涙を流してください…私は、こうしていれば見えませんから」
「…美紗子さん…ありがとう…ありが、とう…」
そういうと、閻魔様と美紗子は、もう一度乾杯してお酒を飲みなおし始めた。
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