第17話 こたつでお鍋
「すっかり寒くなりましたねぇ…」
「…そうねぇ…」
「だらけてはいけませんよ、美紗子さん、地原さん」
「あ、閻魔様! いらっしゃい!」
「なぜ美紗子が管理人的なことを…?」
季節は冬。
閻魔様は秋口に風邪をひき、3日間養生のために煉獄荘に滞在し、その間美紗子にずっと看病されていた。
そのせいもあってか、4日目には全回復し、意気揚々と仕事に向かっていった。
それ以来久々の閻魔様の煉獄荘訪問である。
あの一件以降、美紗子の閻魔様LOVEは順調に進行していた。
しかし、それが表に出なくなった分、少し厄介ではある。
何しろ『天国に行ったあと閻魔様の役に立つには』ということを本気で考え始めたからだ。
そこで、美紗子は閻魔庁への就職を考えたが、何しろ天国でも最難関と言われる公務員試験で、美紗子では到底合格できそうもなかった。
都であれば話は別なのだが…。
「閻魔様、今日はどうしました?」
「…今日はリベンジをしに来ました。
秋のレジャーは私が台無しにしてしまいました…では冬のレジャーは私が主催します」
「冬のレジャー? スキーとかですか?」
「…いいえ、体を使うのはやめます。
それにスキーともなれば複数日にわたってしまいます」
「…そりゃ、一日じゃきついですよねぇ」
珍しく都が相槌を打った。
「…では冬のレジャー…それは、お鍋大会です!!」
「…!!」
「さすが閻魔ちゃん!! やる時はやりますね!!」
美紗子も都も、嬉しそうに閻魔様の提案に賛同した。
「今、白河さんと弥里さんに買い出しをお願いしてます。
今回は私がスポンサーです!」
「閻魔様素敵!! 抱いて!」
「抱くのはお断りします!」
都の茶々に、閻魔様は即答する。
「私は是非抱いてください!」
「…えと…じょ、じょうだんですよね?///」
「ちょっと、私と美紗子の扱い違くない!? しかもなんで顔赤くしてるの閻魔ちゃん!?」
「…じょ、冗談かもしれません…違うかもしれません///」
「美紗子も顔赤くしない!!」
珍しく都がツッコミに回るくらい、閻魔様と美紗子がボケ続けていた。
「早く帰ってきて弥里ぉ!!」
都はついに叫んだ。
「はいはい、買ってきましたよ閻魔ちゃん」
「あ、ありがとうございます、弥里さん」
「ところで…なんで神原ちゃんは閻魔様の腕を握ってるの?」
何も考えられていなそうな美紗子ではなく、都に弥里が問う。
「…知りませんよこんなバカップル」
「…か、カップルって…///」
美紗子は恥ずかしそうに顔を隠す。
「…と、とにかくお鍋始めますよ!
私も明日はお休みにしましたし、煉獄荘の中ですからお酒を飲んで騒ぎましょう!」
「おー!!」
こうして、閻魔様スポンサーのお鍋大会が始まった。
「いやぁ…いいですねぇお鍋…」
さすがの都も、冬の料理の王様、お鍋の前では無力であった。
「…都さんも溶けてますね…」
「そりゃ溶けるわよ…このままこたつと同化したい…引きこもり時代を思い出すぅ…」
「ありゃりゃ、こうなっちゃうと、都は完全に何もしないモードだね」
野菜の灰汁を取りながら、弥里が笑う。
「さ、お肉そろそろいいかなー…はい、美紗子」
「あ、ありがとうございます」
「ほい、都」
「…あーありがとー…」
「閻魔様」
「はい、ありがとうございます」
「で、天子ちゃん」
「…はい、ありがとうございます」
コトン。
最後に自分の前に自分の分を弥里が置くと、弥里は閻魔様に目配せした。
コホン。
「えー、皆様、ありがとうございました。
今年は美紗子さんがこの煉獄荘に来て、少しだけにぎやかになりました。
そして都さんも今回は参加していただき…感無量です」
「…」
無言で手だけ上げる都。
「…では、明日からもまた頑張りましょう…乾杯!!」
「「「「乾杯!」」」」
こうして煉獄荘の冬、なべパーティが始まった。
宴会を続けること3時間。
途中で都が弥里に酒の飲み比べを挑み、なぜか白河もそれに習って三人で飲み比べてほぼ同時に潰れてしまい、酒に強くない閻魔様と美紗子の二人だけが起きている。
「…あったまりますねぇ…」
「…そうですね…」
「美紗子さん」
ほんわかしていた閻魔様が美紗子を呼ぶ。
「…あなたが来て、都さんがヒキコモリから脱却して…白河さんのお仕事も少し楽になって…本当に私は感謝しています」
「閻魔様…」
美紗子はその言葉を聞いて、うれしかった。
煉獄荘にいい方に向かってもらえれば、と思いながら。
「…また今後も、よろしくお願いしますね…あと」
そこで閻魔様は、言葉を切って、にっこり笑いながら答えた。
「私と、これからもずっと一緒にいてください!」
その時の閻魔様は、閻魔ではなく、天使のようだった、美紗子は後々まで思うことになる。
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