第16話 えんま様の休日

 

「…ただの風邪ですね。

 数日安静にしてもらいましょう」

 ここは煉獄荘102号室。

 部屋の中には、布団で寝ている閻魔様と、白河、美紗子、都がいた。

 弥里は酔いを醒まして車を返しに行っている。

「…大事じゃなくてよかったです」

「閻魔ちゃん、無理し過ぎたみたいだね」

「…閻魔様、紅葉狩り、楽しみにして、数日残業で夜遅くまでやってましたからね…」

「無理し過ぎですよ、閻魔様…」

 高熱を出して目の前で寝ている閻魔様に美紗子は優しく声をかけた。

「もう…無理しちゃダメ、ですよ…本気で心配したんだから」

「…神原さん」

 美紗子が閻魔様に声をかけていると、白河が美紗子を呼んだ。

「…はい」

「私、閻魔様の上司の方に報告して、あと必要な品を買ってきます。

 その間、閻魔様のそばにいてあげてください。

 …くれぐれも、うつされないように注意してくださいね。

 では、よろしく」

「…ハイ」

「あ、アタシは管理人室にいる。

 管理人の仕事くらいしとかないとね」

「…はい…」

 都も気を使って、部屋を出た。

 

 目の前に、熱を出して寝ている憧れの存在。

 初めて会ったときから、ずっと憧れてた。

 かわいらしくも、頼もしい存在。

 頭のタオルに水を含ませながら、美紗子は考える。

 自分は、天国に行き、彼女のそばにいたい。

 そのために煉獄荘で徳をためて、天国に行かないといけない。

 いつ徳がたまるかはわからないが、それまでは徳の間に毎日通い続ける。

 美紗子はそう誓った。

 

「んっ…」

 まだ白河は帰ってきていない部屋で、美紗子は閻魔様を看病している。

「美紗子さん…あなたは…じな…ひとです…」

「…?」

 自分の名前が出たことに、閻魔様が起きたかと思ったが、どうやら寝言のようだ。

「…私の…そばに…いて…ください…」

「はいはい…ずっとおそばにいますよ」

 寝言に話しかけてはいけないとは知っているが、それだけは美紗子は言いたくなった。

 

「あなたは…私の…ですから」

 

「…!? …今、何か言ったような…」

 よく聞こえながったが、どうやら閻魔様にとって美紗子が何かを告げたようだ。

「…戻りました」

「…あ、白河さん、おかえりなさい」

「神原さん、ありがとう…閻魔様は目覚めて…いないようですね」

「ええ、お休みになっています」

「…では変わりましょう。

 三日ほど閻魔様をお休みにしてきましたが、私は今日だけなので、あと二日間、神原さんにまた看病をお願いしますけど、大丈夫ですね?」

「…もちろんです」

 そう言って白河は微笑むのを見ると、美紗子は部屋を出た。

 

「…(危なかったですね…先ほど閻魔様、言いかけましたね、あのこと…)」

 美紗子の様子から、聞こえていなかったと判断した白河は間一髪と胸をなでおろした。

「…もう少し、もう少し待たないと…ですよ、閻魔様?」

「…」

 その言葉に、閻魔様は何も答えなかった。

 

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