第15話 秋の小さな出来事
「少し寒くなってきましたね…都さん、大丈夫?」
「…大丈夫じゃない…」
先日、『都の閻魔様』が来襲したときから、都は元気を奪われているようだ。
「まったく、都はもやしっ子だねぇ」
「…なんとでも言って」
弥里のセリフにも都はあまり答えられない。
「…あぁ皆さん、おそろいですね」
「あ! 閻魔様!!」
その声に、美紗子がまず反応し、抱きしめる。
「美紗子さん、相変わらずですね…」
「…美紗子は閻魔ちゃん大好きなんだなぁ…」
「あーあ、美紗子が閻魔ちゃんに抱き着いても、都が無反応だ…こりゃ重症だね」
弥里が呆れる。
「皆さん、秋のレジャーに行きましょう!」
「「「秋のレジャー?」」」
閻魔様の言葉に、弥里、都、美紗子の声が重なる。
「そう、紅葉狩りです!」
「紅葉狩り!!」
「あぁ久々だねぇ…」
「あー…いいですねぇ…」
ようやく都が少しやる気を出した。
そして当日。
いつもの通り、レンタカーを借りた煉獄荘の面々は、煉獄荘から遠くに見える山へと向かっている。
「…秋ですねぇ…」
「そうさね」
珍しく助手席に座った美紗子が、通りの銀杏が黄色く色づいているのを見ながら、運転席の弥里に声をかける。
「…」
美紗子はちらりと後ろを見る。
というのも、閻魔様が珍しく少し眠ると言い残して後ろに言っているためである。
「…気になる?」
「…そりゃもちろん」
「…そうだね…私もだ」
どうやらこの旅行のために、閻魔様は前日少し無理をしたらしく、夜遅くまで仕事をしていたようだ。
あの世の公務員とはいえ、旅行前に仕事を終わらせないといけないのは変わらないらしい。
山裾にある湖のほとりに車がつくと、真っ先に美紗子が車の外に出た。
「あぁ…空気がおいしいわぁ…」
ぐっと伸びをしながら美紗子が言う。
「そうねぇ…すがすがしい」
「…都、大丈夫?」
「…ダメかもしんない…」
これもまた珍しく都が車酔いし、先ほどトイレ休憩でようやく少し復活した。
「じゃぁ休んでてよ。
お昼準備できたら起こすから…」
「…わかったぁ…」
そう言って都が車に戻ると、代わりに閻魔様と白河が車から降りてきた。
「遅くなってしまいましたね。
さぁ、紅葉狩りに行きましょう!」
「はい!」
閻魔様も元気になったようで、意気揚々と山へと向かっていった。
「だいぶ赤く色づきましたね。
今年は早く冬が来そうです」
「そうですね」
閻魔様に並んでいる美紗子は、閻魔様と白河のそんな言葉を聞きながら湖畔を歩く。
「さて、この辺にしましょう。
神原さん、広げてもらえる?」
「あ、はい」
10分ほど歩いた場所で美紗子は白河の指定通りビニールシートを広げる。
「この湖の周りは少し温度が低いので、紅葉の見ごろはごく短いんですよね」
「そうなんですか?」
持ってきたお酒を手に持ち、閻魔様がしみじみ語る。
ほんのりと顔が赤くなっている。
「紅葉の季節の休みは、いつも白河さん、天野さんと3人で来ていましたね」
「そうね」
しばらく白河と話していた弥里が答える。
白河と弥里…そういえば、どんな関係なのだろうか。
閻魔様を介した関係であることは確かだが、白河の発言に、閻魔様が不思議そうな顔をしているのに、弥里は笑ってみせたり、何か違う気がする。
最もそれに気づいても、美紗子が思うのは閻魔様とそんな関係になりたいというだけだったが。
「…弥里さんって」
「閻魔様!?」
ふと、弥里と白河の関係を軽い気持ちで聞こうとした瞬間、白河が声を上げた。
「白河さん!?」
「神原さん、閻魔様を車に運んで!
すごい熱なの!」
「えっ!? あ、はい、わかりました!」
そういえば先ほど、さしてお酒を飲んでいる様子でもないのに、閻魔様は赤い顔をしていた。
美紗子が閻魔様を負ぶって先に車に向かい、その後場所を片付けた白河と弥里が追いかけて来た。
「どうしたのよ美紗子。
…閻魔ちゃん、寝ちゃってる?」
車で休んでいた都がただならぬ美紗子の様子に気圧された。
「…都さん、復活してすぐですいませんけど、帰ります。
閻魔様がすごい熱で…」
「…えっ、大丈夫なの?」
「…わかりません」
「…帰った方がよさそうだね」
「あ、美紗子さん」
「はい?」
都に状況を説明していると、白河が美紗子を呼んだ。
「弥里さんがお酒を飲んでしまったので、帰りは私が運転します。
…閻魔様を、その間お願いします」
「…ハイ!」
こうして煉獄荘の短い秋の短い娯楽は終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。