第4章 何かが動き出している予感
第14話 都の閻魔様
「ん~…秋めいてきましたねぇ…」
「あ、神原ちゃんおはよう」
「あ、弥里さんおはようございます」
夏のような少し暑い時期を過ごした後、煉獄荘は秋。
「あ、お手紙…」
涼しくなった煉獄荘の前で体操していた美紗子はポストの手紙を見つける。
「都さーん」
「どしたの美紗子?」
「お手紙ですよ、美紗子さんに」
「アタシにぃ?
なんかヤな予感するなぁ…」
例によって管理人室にいる都に、美紗子が手紙を渡す。
「…ゲッ」
「何々、どしたの、都? …あぁ…」
「何よあいつ!!」
差出人は、どうやら閻魔様とは別の閻魔様のようだった。
「…誰です?」
どうやらその人物を知らないのは美紗子だけのようで、都は若干憤りをあらわにし、それ以外のメンバーは苦笑していた。
「都の閻魔様だよ」
「…どういうことです?」
「弥里、アタシ買い物行ってくる。
留守よろし…」
「たのもー!!」
「…ゲッ」
今日二回目の都の『ゲッ』が炸裂する。
「美紗子ぉ、弥里ぉ、出てぇ」
管理人室の中で姿をひそめ、都は懇願する。
「分かったよしょうがないねぇ…行くよ、神原ちゃん」
「えっちょっちょっ…」
「これはこれは都の閻魔様、どうかしました?」
「…あぁ、弥里さんでしたか?」
少し尊大ではあるが、美人の閻魔様が煉獄荘の前に立っていた。
「あなたに用はありません、都に…」
「あぁ、彼女は新入りの、神原美紗子です」
「始めまして…」
「…ごきげんよう。
私はこの煉獄とは別の煉獄を担当する閻魔です」
そう言って型通りに自己紹介をされるが、『都の閻魔様』は美紗子にはさして興味を示さなかった。
美紗子はふとそこで思い出した。
「あー、都さんと喧嘩した閻魔さ…むぐっ!」
「…神原ちゃん、それ言っちゃダメ…」
「ほう、都はそんな風に私を言ってるんですか…」
「あーあ…怒らせちゃったよ…」
額に青筋を立てながら、『都の閻魔様』は煉獄荘の中に入っていった。
「あ…」
「都…骨は拾ってあげるよ」
「弥里さん、それシャレにならないから!」
「…ほう、本当にヒキコモリから抜け出したんですね」
「…そうよ、悪い?」
意外と友好的に話そうとする『都の閻魔様』と、完全にふてくされている都が管理人室にいた。
「それに、管理人代理ですか…いったい何があったんです?」
「アンタには関係ないでしょ。
アタシは今、閻魔ちゃんの下で楽しくやってるんだから!」
都は喧嘩腰なのは喧嘩腰なのだが、どう見ても『母親から注意される反抗期の娘』だった。
「…そのようですね。
まぁ今回は、これを持ってきただけですから」
「…?」
「祝いの品です。
引きこもり脱却おめでとう、都」
「…へ?」
そう言って、『都の閻魔様』は天国共有領域にあるデパートの包みを都に渡した。
「あとは…貴方が天国に行ってくれれば、私の仕事は終わります。
では、失礼」
「…」
さすがの都があっけにとられた。
「美紗子さん、といいましたか」
「…え、あ、はい…」
帰り際、『都の閻魔様』は美紗子に声をかけた。
「あなたが都を救ってくれたようですね。
私が言うことではないかもしれませんが…ありがとう」
「…え?」
なぜか突然、感謝された。
「都は…自分の煉獄に人を送ったことのない私が、唯一審判を下せなかった人物なのです。
そして、貴方がたの閻魔に借りを作ってしまいました。
まさか都を救い出してくれるとは…だから、ありがとう」
「…いえ…私は何も」
「謙遜しても何もありませんよ。
さて。弥里さん」
「ハイ?」
「これを白河さんに渡しておきなさい」
「…あ、ハイ」
そう言ってレシートのようなものを弥里に渡した。
「…都の閻魔様!?」
「その呼び方はおやめなさい!!」
恥ずかしそうに『都の閻魔様』が弥里の口をふさぐ。
「そ、それより、これ!?」
「都を救った、徳、です」
「では失礼しますね」
そう言って『都の閻魔様』は煉獄荘から帰っていった。
「嵐のような人でしたね…」
「ええ、そうなのよ…って、神原ちゃん、それどころじゃないって!! コレ!」
「…あ、徳くれたんですね…って、こんなに!?」
『都の閻魔様』は美紗子に徳の部屋(中級)で一年間くらい積んだくらいの徳を渡してくれたようだ。
「…白河ちゃんにみせよう…あと、都に見せるのはやめよう」
「へ? 何でです?」
「都は、『あんな奴からもらった徳捨ててしまえ!!』とか言ってこのレシート捨てそう」
「…ありそう」
こうして、都とひと悶着あった閻魔は嵐のように帰っていった。
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