第10話 煉獄荘のレジャー
「み~さ~こ~♪」
「はいはい、今行きますよ、都さん」
美紗子が待機の間に来てからはや数か月。
なぜか待機の間、という名前にも関わらず、季節は巡るようで。
気温は28℃と、美紗子が昔すんでいた日本に比べると、比較的低いとはいえ、暑い時期…夏になった。
今日は、閻魔様、白河、弥里、都とともに、『レジャー』に行く日だ。
天国との共用領域にはレンタカーもあり、それを1台借りてレジャーに行くことになっていた。
「♪~ ♪~」
「神原さん、ごきげんですね」
閻魔様も今日は私服で楽しそうにしている。
「そりゃぁもう…って、閻魔様…なんですかその服は!!」
「はひっ!? な、何かおかしいですか!? お気に入りなんですけど!?」
「…おかしいどころか、似合いすぎてて超かわいいです!!」
ぎゅー。
「うわぁぁ、久々、久々に、神原さんにホールドを!!」
「美紗子! この浮気者ぉ!」
閻魔様を抱きしめた美紗子、それに抵抗する閻魔様に、そんな美紗子大好きな都、みんながそれぞれに騒いでいる。
「はいはい、そこまでぇ」
バキッ、ボキッ、ドサッ。
「…弥里さん、容赦ありませんね。さすがです」
「…正直、助かりました…」
「…(きゅー)」
「…(きゅー)」
「さ、出発するよ」
こうして、美紗子が来てから初めての煉獄荘のレジャーが始まった。
「さ、着いたよ」
「久しぶりですね、ここも」
弥里の運転に揺られること2時間。
目の前には一面の青い海が広がる。
「…ほら、そろそろ起きな、神原ちゃん、都―」
「んっ…え、もう着いたんですか?」
美紗子が目を覚まし、目の前の海を見た。
「うわぁ…海だぁ…」
「そう…この待機の間最大の観光スポット、待機の海ですよ」
閻魔様が楽しそうに答える。
「待機の海?」
「ええ、すべての閻魔の待機の間は、この海でつながっているのです。
もちろん、そう簡単には別の閻魔の待機の間には行けないですが」
珍しく閻魔様が解説を加えた。
「そうなんですか…海で隔てられてるんだ…」
美紗子も閻魔様の解説を感心しながら聞いている。
「ほらほら、神原ちゃんも、閻魔様も、早く着替える!」
「あっ、ハイ…」
そうこうするうち、弥里が二人をせかし、二人を着替えさせた。
「天野さぁん…本当にこれしかなかったんですかぁ…」
とりあえずおとなしめのビキニに着替えた美紗子の目に入ってきたのは一緒に着替えていた閻魔様であった。
「…!」
「…うーむ、かわいらしい」
いわゆるスク水スタイルの閻魔様を、珍しく都が頭をなでる。
「もう神原さ…あれ、地原さん?」
「あ、美紗子ならあっちで気絶してます」
いつものように、美紗子に撫でられていると思っていたらしい閻魔様が意外そうな顔で都を見上げた。
「あー、閻魔様の余の可愛さに、気絶したか、神原ちゃんは…」
「そのようですね…」
「…とりあえず、パラソルの下に寝かせてと…」
こうして、煉獄荘の海水浴が始まった。
「んっ…」
しばらくして気絶から美紗子が立ち直ると、海で遊んでいる閻魔様、都、弥里が見える。
「あ、目が覚めました?」
「え、あ…あぁ、すいません私ったら…」
美紗子が目を覚ますと、パラソルの下で白河が本を読んでいた。
「まぁ、目が覚めてよかったです。
あの閻魔様を見れば、神原さんが気絶するくらい、想定内でした」
そう言って白河が微笑む。
「うー恥ずかしい…そ、それにしても…なんと閻魔様かわいいんでしょうか…」
恥ずかしがりながらも、美紗子は閻魔様の水着姿に、うっとりとした視線を投げる。
「…これなら大丈夫かしらね」
「…え、今何か?」
ぼそっと、白河がつぶやいたような気がして、向き直ったが、白河は「なんでもないわ」とほほ笑むだけだった。
「あ、弥里さん呼んでる、私も行ってきますね!」
「ええ、行ってらっしゃいな」
笑顔で白河は美紗子を送り出し、再び本に目を落とす。
ひとしきり水遊びを楽しみ、ついでに美紗子は閻魔様を、都は美紗子を愛で倒し、弥里と白河は少しあきれ顔ながらも楽しく時間を過ごす。
お昼は弥里特製の焼きそばをはじめとするバーベキュー。
閻魔様のテリトリーのプライベートビーチとあって、だれにも邪魔されない海岸で、5人だけのレジャー。
美紗子は誰かとレジャーに行って初めて「楽しい」と思っていた。
「煉獄荘のレジャー、最高ですね…」
「神原さん?」
心で思っただけが、口に出てしまったその楽しさを、閻魔様が聞いていた。
「いえ…気の合った人だけでのレジャー…楽しいなぁって」
「それは、あなたのおかげですよ」
「…へ?」
最初意外そうな顔をした閻魔様が、今度はにっこりとほほ笑んだ言葉に、美紗子は目が点になった。
「白河さん、天野さんとはここに来たことはありましたけど、白河さんは仕事柄日焼けができないですからその時も、パラソルの下にいましたし、天野さんは運転があるからあまり疲れさせられませんし、私一人ではしゃぐわけにもいきませんからね。
今までの海水浴、ここまで盛り上がりませんでしたよ、ねぇ?」
「そうですね」
「そうそう」
白河と弥里も賛同の意を示す。
「ほへぇ…」
「それが…まぁ私が至らずにとはいえ、美紗子さんがここにきて、地原さんを外に出してくれて…だから盛り上がってるんですよ」
「…閻魔様…」
閻魔様の言葉に、美紗子の顔が少し赤くなる。
「ほほぉ…美紗子、貴様さては、照れてるな!」
「み、都さぁん!!」(バシッバシッ)
「ちょっと、いたい、痛いって美紗子!」
都のいたずらっぽい言葉に、美紗子は照れ隠し的に都を叩く。
「…でも、本当のことですよ。
私が美紗子さんの担当閻魔で良かったです」
「閻魔様…」
美紗子はその閻魔様の言葉に、思わず閻魔様を抱きしめる。
「美紗子さん…"今後とも、よろしく"」
珍しく閻魔様も美紗子のスキンシップを嫌がらなかった。
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