第8話 都改造計画

 

 8.都改造計画

 

「いいのよ別に」

「いいことありませんよ。

 都さんかわいいんだから、ね?」

「…もう」

 怒ったような態度をとる都と、彼女の後ろで諭すような表情をする美紗子。

 二人で鍋を囲んだ翌日。

 初見で幽霊をほうふつとさせた都だったが、美紗子が試しに彼女の前髪を上げて見たところ、非常にかわいらしい顔が出てきたのだ。

 それを指摘し、天国との共用領域である美容院へ行こうと提案すると、最初は渋っていた都も、ようやく納得した、それが先ほどのやり取りである。

 

「久々だなぁ、二人で外出るの」

「そうなんですか?」

「来たばっかりの頃、弥里に連れ出されて以来かな。

 それ以降は、一人でさっき通ったコンビニに行くくらいしか外出しないし」

 どうやら、資産とコンビニとネットさえあれば何とか暮らせるのは、現世と変わらないようだ。

「そういえば、都さんはなんで死んだんですか?」

「あぁ、殺されたの」

「えぇっ!?」

 あっさりと結構重いことを言われた。

「アタシさぁ、現世じゃ結構世話焼きでさぁ」

「そういえばそんなこと言ってましたね」

「そうそう。

 それである山荘で殺人事件に巻き込まれたんだけど、そこで偶然解決に結びつくような手掛かりを見つけてね。

 犯人を問い詰めたら殺された」

「…あ、あるんですねぇ…」

 若干美紗子が引き気味になっているが、都は気づかずに続けた。

「事件自体は偶然居合わせた探偵に解決されたらしいんだけど、まぁそんな死亡理由さね」

「…あぁ、それ新聞で読んだかも…あの被害者が都さんなんですねぇ…」

「アタシ、生きてる頃は正義感が強い方でさぁ。

 前の閻魔ともめたのも、その辺があったんだよねぇ」

 そういえば、都が閻魔様の担当になったのはもともとの担当閻魔ともめたからであった。

 正義感が強い人にありがちな、頑固さもあったのだろう。

「前の閻魔様のところの待機の間っていう選択肢はなかったんですか?」

「ん? あーそうねぇ…考えたことなかったよ。

 まぁ、待機の間行っちゃうと担当閻魔とは結構接点多いから、今の閻魔ちゃんのところで待機の間に入れたのは、幸運だったかな」

「…そうなんですね」

 美紗子は、都のもともとの閻魔が担当だったら、おそらく有無を言わせずに地獄行で、行きたくもない現世に輪廻転生させられてただろうな、と考える。

「さ、つきましたよ」

「…そうね」

 そして天国共用領域にある美容院に都は入っていった。

 

「…」

「ど、どうかな…」

 もともと長かった髪は切り揃え、前髪を上げて、しっかりとシャンプー・リンスで髪質を整えて出てきた。

「…ごめんなさい、誰かと思うくらい前と違います…」

「えっ!? 変かな!?」

「いやいやいやいや、都さんこんなにかわいいんですから、あんな生活続けてちゃダメですって!!」

「…///」

 誉められ慣れてないのか、都は少しツンとしながら、顔を真っ赤にしてそれでも「ありがとう…」と小声で言った。

 

「ただいまー」

 変身させた都を連れて、二人が煉獄荘に帰り着く。

「あ、神原さんおかえりなさい…えっと、お隣は…?」

 珍しく美紗子よりも先に管理人室に帰っていた白河に美紗子が挨拶すると、白河は美紗子の隣の人物が誰なのかわからなかったようだ。

 しかも美紗子の後ろに隠れ気味であった。

「…自己紹介してください?」

 美紗子は少し意地悪く促した。

「…あの…都です…」

「…はぁ都さん…って、地原さん!?」

 白河は本気で彼女がわからなかったようで、心底驚いていた。

「ええ、都さんですよ?」

 美紗子は少し嬉しそうに、愕然としている白河の脇を、美紗子と都は部屋へと戻っていった。

「…神原さん徳、ためときましょうね」

 白河は、都を外に出したことをできるのではないかと思い、美紗子に徳を記録した。

 むろん、閻魔様も可算を認めてくれることだろう。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る