第2章 煉獄荘の引きこもり編
第6話 煉獄荘の引きこもり
草葉の部屋のあと、スーパーで買い物を済ませた二人は、煉獄荘へと戻ってきた。
弥里は部屋に入りながら「じゃぁ、暇なときはおいで」と言い残していった。
明日は徳の部屋で徳でも貯めようかと美紗子が自室に入ろうとした、その時。
どこからか視線を感じた。
「…ん?」
ガチャン。
203号室の少しだけ空いていた扉が閉まった。
「…?」
今、例の『都さん』に見られたのかな。
美紗子はそんなことを思いながら、部屋に戻った。
夕食を終えると、美紗子は弥里の部屋に向かう。
「弥里さーん!」
「はいよー、開いてるから入ってー」
ガチャリ。
「お邪魔します~」
美紗子は弥里の部屋に入り、先ほどの203号室の話をした。
「なるほどねぇ…都、ほとんど私もあってないのに、新入りは気になるのかな」
「ほとんどってどのくらいですか?」
相当長い間だろうなと思いながら、美紗子が聞く。
「ん? 都がここに来て歓迎会をやった翌日からだよ?
ご飯に関しては、天国共用領域にコンビニあるから、アタシとか天子ちゃんが寝静待った後、何か買いに行くみたいだけど」
「え、えぇ!?」
ほとんど新入りのやってこないこの世界で、歓迎会をやった翌日から人と会っていない。
かなりこじらせた引きこもりじゃないだろうか。
「…なんで都さんはそんな引き籠ってるんですか?」
「私もよく知らないんだ。
知ってるのは本人だけ…あ、閻魔ちゃんは少し知ってるのかな」
「…」
美紗子は昔引きこもりになった友人を思い出した。
その人物は、何かの原因で引きこもって、そのあとも過保護な両親に養ってもらってしまったため、抜け出せなくなっていた。
しかし、"都"に関してはどうだろう。
親がいるわけでもない、どうやら弥里や白河が世話を焼いているわけでもなさそうだ。
何しろ、深夜になればコンビニに出かけて生活していることから、徳がないわけでもなさそうだ。
「まぁ、アイツは徳はあるんだよなぁ…それなら生活には困らないしな」
「…」
どうやら現世では徳をためていたのに、ここにいるらしい。
徳をためているのに、ここにいるというのは、ますますもって不可解だ。
しかし、それを確かめるすべもなく、その日は自室へと戻るしかなかった。
それから数日、美紗子は徳の部屋に行っては徳をため、スーパーで買い物をし、部屋でくつろぐ、という日々がだんだん日常になるのを感じた。
その間の徳の部屋で、以前、最初に徳をためるときに財布を一緒に探した女性が、車の下に落としてしまった鍵をとれずに困っているところに遭遇してまた徳を貯めることに成功したのだが、その際彼女から「また、会えそうな気がするわね」と因縁めいたセリフを言われたりもしたが。
そうこうするうち数日が経過した。
いつものように徳をため、証明書を白河に渡した後、美紗子は自分の部屋に戻った。
すると、やはり都の部屋のドアが少し空いている。
「…あの」
意を決して呼び掛けてみるが、今日はドアは閉まらなかった。
「…都さん、ですよね。
初めまして、新入りの美紗子です。
お夕飯、一緒に食べません?」
「…」
すると、ドアがスーっと開く。
そこには誰もいなかったが、どうやら、入れ、ということらしい。
「…失礼しまーす」
今まで、弥里も白河も入ったことのないらしい、203号室。
「…どうも」
一瞬、幽霊でも立っているのかと思った。
考えてみれば、お互い死者なのだから幽霊に近いことは近いのだが。
その幽霊氏が、弥里曰くの"都"であるのだろう。
長めの黒髪はカットこそされているものの、前髪が非常に長く、顔を隠そうとしているようでもあった。
机の上にはパソコンらしきものが置かれており、どうやら情報系には明るいようである。
「…」
「…」
数分の気まずい沈黙の後、都は笑いもせずに応えた。
「…夕飯、一緒に食べるんでしょ?
コンビニ、行く?」
「…あぁ、いえ、作りますよ。
少し多めにお野菜買ってきましたし」
「…おにく」
「え?」
「お肉食べたい。野菜よりお肉食べたい」
煉獄荘の先輩ではあるものの、見た目は美紗子より少し幼いような外見をしている。
そして、言っていることも少し幼いようだ。
しかし、会話が成立したことが美紗子は少しうれしかった。
「じゃぁ…スーパー、行ってきますので少し待ってくださいね」
「…いく…私も行く」
「…はい、一緒に行きましょう」
そう言って二人は煉獄荘を出て、スーパーへと向かった。
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