第2話 煉獄荘
2.煉獄荘
「ここが、待機の間で徳を積んでいる間、あなたに住んでもらう『煉獄荘』ですよ」
「…」
美紗子の目の前にはどう見ても普通のアパートがあった。
「どうしました? 行きますよ」
「…あ、はい」
白河はアパートに入ると、1Fの最も手前にある部屋に入った。
「管理人室?」
「ええ、私普段はここで管理人をしてます。先ほどの閻魔様が裁きを行う時だけ秘書を担当します」
「…閻魔様、あんまり裁きされないんですか?」
「公務員ですからね。担当閻魔の人数は十分いますし、無茶はしません」
公務員!?と驚く美紗子をしり目に、白河は話を続ける。
「えっと…今いてるのは102、103と、202号室ね。…神原さん」
「あ、ハイ」
「2階でもいい?早めにここの生活に慣れて徳を積めるよう、202号室で隣の方にも協力してもらいましょう」
「あ、ハイ、それでいいです」
「ではいらっしゃい」
カツン…カツン…。
二人は2階の202号室を目指して階段を上がる。
そして2階に着く。
ガチャリ。
その時、201号室の扉があいた。
「ふわぁ~あ…あ、天子ちゃん、おはよう…」
「あぁ、天野さん、おはようございます」
「…」
そこからショートカットの活発そうな女性が現れた。
「おぉー、天子ちゃん、新入り?」
「ええ、あ、こちら201号室の天野弥里さん。煉獄荘に長くいるので何かわからないことがあれば彼女に聞く方が早いですよ」
「よっす」
「あ、よろしくお願いします。神原美紗子です」
「先日亡くなったんですが、天国に行くのに徳がちょっと足りなくて、徳集めのためしばらくここに住みますのでよろしくお願いしますね」
「あいよ。それで、どこまで話したんだい、待機の間のことは」
弥里は白河から今までに美紗子に話した内容を聞く。
「あーじゃぁこっからはおねーさんが教えよう。
天子ちゃんも忙しいっしょ」
「そうしてもらえると助かります…神原さんもそれでいいですか?」
「あ、はい…宜しくお願いします」
そう言って美紗子は202号室の鍵を白河から預かり、部屋にわずかばかりの生活用品を置くと、201号室に向かう。
「お、来たな。じゃぁ行こうか」
そう言って弥里は美紗子を連れて、煉獄荘を出る。
弥里は美紗子を連れ、煉獄荘を出た。
「そういえば、ここに来たのはなんで?」
「ああ、私天国に行くには徳が足りないみたいで…」
「へー…キミ、不徳少なそうだから天国に普通に行けそうだけどねぇ」
弥里が不思議そうな顔をする。
「あぁ、不徳は少ないらしいです」
「けど徳がないの?珍しいねぇ。あぁ、だからあの閻魔ちゃんが煉獄荘行きにしたんだ、なるほどなるほどぉ」
どうやら、待機の間にはあまり新人が来ないようで、弥里がケラケラ笑う。
「? どういうことですか?」
「いやさー、なんでも閻魔業界では白黒はっきりつけるのが善とされてて、あの閻魔ちゃんは、特に煉獄荘に人を流すのを嫌うのさ」
そういえば閻魔様を『閻魔ちゃん』扱いできる弥里がどんな人物なんだろう…という疑問はさておき、あの閻魔様意外と硬い人のようだ。
「だから、徳が少しくらい少ないくらいなら、閻魔温情で天国へ、逆に不徳が少し多いようなら地獄から現世に旅立たせるような結構非情なところがあるのよ。神原ちゃんの場合は、どっちにするのもためらったんでしょうね」
「そういえば、裁きの最中、白河さんに言われましたね、『貴方は中途半端』って」
「ははは、天子ちゃんも容赦ないねぇ」
そんなことを言いながら歩いていると、煉獄荘の近くにある施設の前に着いた。
「さて。ここ神原ちゃんにとって一番重要な施設よ」
「ここが、ですか?」
閻魔堂は黒と赤を基調としたゴツイ建物であったが、この施設は白い公民館のような施設であった。
そしてその入り口には『徳の部屋』とあった。
「徳の部屋?」
「そ。この中で、徳を積めるの。さ、入りましょ」
そう言って、弥里が中に入ると、美紗子も後をついていった。
入口で利用者登録を済ませ、中に進むと何やらいくつかの部屋に分かれていた。
「…初級?」
一番近くの部屋の入口のプレートにはそう書いてあった。
「そ。ここは簡単に解決できる徳が集まる部屋。その隣は中級で若干難しく、一番奥が上級で解決は難しいけどその分多く徳が集められる部屋だね」
「…えっと、つまり?」
「この部屋の中に入ると現世で困ってる人がいる場所に飛ばされて、それを解決しようと努力すると徳がもらえて、さらに解決すると追加徳がもらえる…まぁ言うなれば徳の『ボーナスステージ』ね」
「わかるようなわからないような…」
「まぁ、入ってみればわかるわよ。初級1回入ってみれば?」
「はぁ…」
美紗子は初級に入ってみることにした。
「…あー、ないなぁ…」
部屋に入ると目の前に何やら探し物をしている女性が現れた。
「あの…」
「ハイ?」
意を決して美紗子が話しかけた。
「何かお探しなんですか?」
「あ、ええ…実はこの辺でお財布を無くしてしまって…」
「…一緒に探しましょう」
「え、いや、そんな…」
「大丈夫ですよ、ヒマですから」
「あ、そういうことなら…お願いします」
女性は突然現れた美紗子に戸惑いながらも、手伝ってもらえるならと財布探しに戻った。
「…(ないなぁ…)」
女性はあまり地面に這いつくばってしまうのを避けているようで、美紗子は汚れても大丈夫な格好のため、這いつくばって探すことにした。
「…ん?」
すると、ベンチの下の方に何か落ちていることに気づいた。
「…あ、これですかね?」
「…へ? あ、はい!これです!! 助かりました!! すいません私、これからお客様に合わないといけなくて、汚れられなかったものでベンチの下まで探せてなくて…」
「あってよかったです」
「よかったぁ!!」
「ではこれで…」
安堵する女性を残し、美紗子は先ほどの扉に戻ってきた。
「(なるほど、現世の困っている人のところに、徳をためたい煉獄荘の住人が現れて困りごとを解決するのがこの『徳の部屋』なわけだ)」
一人納得し、徳の部屋の前に美紗子は戻ってきた。
「わかった? この部屋の仕組み」
「…ハイ、よくわかりました」
「じゃ、気が向いたらここにきて、徳を積むといいよ。
よし、じゃぁ後は買い物して帰ろうか。
買い物の場所とこの場所だけ覚えておけば当面は問題ないよ」
「…はい、ありがとうございます」
「あ、それと…これ」
「これは?」
何やらレシートのようなものを渡された。
「部屋で徳をためたら、これをもらうからあとで天子ちゃんに渡して。
それで徳をためたことになるから」
「え?さっき、部屋を出るときに金貨でもらいましたよ?」
「それを渡してもいいんだけど、買い物行くって言ったでしょ?
通貨にもなってるから、それがないと買い物できないよ?」
「あ、そうなんですね…」
「代わりにこの『徳取得証明書』を天子ちゃんに渡せば、徳の計算をしてくれるわけ」
つまり、徳は天国へ行く切符であると同時に、天国通貨でもあるわけだ。
天国での労働は徳をもって支払われる、ということになる。
さらに一度取得した徳は、買い物で消費しても消えるわけではないから代わりの証明書をもっていけばいい、ということらしい。
「さ、じゃ買い物行こ」
「はい…」
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