第38話 この場でも九名鎮、ボケるんかい!!
(38)
じりじりと照り付ける太陽。
まるで西部劇に出て来るガンマンのように加藤に近づいてゆく。
――これが今のコバやんの心理的情景だ。
では加藤には迫る三人はどう見えるか?
相手の加藤は三人がやってくるのは既に承知済みの様で背にバッグを背負ったまま、近づいてくるのを見ている。
加藤のサングラス越しの網膜に三人がどのように映っているか。
それはこうだ。
ちょっとメイクをして大人びてる女子高生。
カジュアルで動きがしなやかそうな眼鏡の知的学生。
…そして最後は祭り法被姿の型破りな個性的キャラ。
中々の組み合わせと言える。
ふっと思わず笑いが漏れてキャップ帽を目深く被る。それから加藤のサングラス越しに目が動いて、やがて声が漏れた。
「…いやぁ、皆さん。暑い最中ご苦労様。ずっと55アイスクリームから僕をつけて来たんだよね」
迫る三人がその声で一斉に止まる。止まると、じっと加藤に視線が注がれる。じりじりと照り付ける太陽が加藤の一挙一投足を見ていたが、焦れた様に真帆が言った。
「そうよ。ほんま、めっちゃ偶然やわ。それに夏休みに制服も着てウチ等を待っててくれるなんて」
「待ってた?いや、違うよ。こちらこそ本当に驚いたよ。偶然と言うか」
「どういうことよ」
むっとして真帆が言う。
「この前、君等の前から飛び降りた時、ロープを切っただろ?あれさ、凄くいいメーカーのヤツでさ。君らが行ってた心斎橋のあのスポーツ用品店しか輸入してないんだよ。だから学割利かす為に制服で買いに行ったら、そこに君らが居る…だから驚いたのはこっちの方さ。よくあの店で扱っているって分かったね」
「そうなん、コバやん??」
真帆がコバやんに振り返り聞く。
コバやんが頷く。
「うん、そう。実は持ち帰ったロープを調べるとシリアルナンバーが刻印されていたんだ。それをネットで調べるとあのスポーツ店が輸入代理店になっていた。それで九名鎮に今日店に行こうと連絡入れたんだよ」
コバやんが髪を掻いて真帆に応えた。
真帆は心の中で唸る。
(…さっすが、探偵や)
その唸る気持ちのまま加藤を見る。
「あとは暑いからさ、55アイスクリーム店でアイスでも食べて帰ろうとしたら、…そちらの誰かがどうも暑さに我慢できなかったのか、そこでも偶然ばったりってやつさ。こうも偶然が重なると何やらご縁がありそうだから、帰り道がてらまぁ君等にここまでご足労願った訳」
「どういうご足労よ?まぁ聞いてやりなよ。隼人、こちらも聞きたいことあるし。だってあんたが暑さ我慢できなかったんやから」
「えっ?僕!!?この場でも
甲賀の突っこみに真帆が肩をすぼめる。だが振られた甲賀は真面目に加藤へ向き直る。
「加藤…ってやつはお前か」
低い声で甲賀が聞く。
「そう、俺さ。君は?」
「僕は甲賀。知ってるかどうかは分からないが」
「ああ、あの甲賀君ね。すっごいお金持ちの」
思わず真帆がぷっと噴き出す。
「やっぱ――お金持ちがつくんよね、隼人はネーミングに」
「ちっ」
舌打ちをして加藤に甲賀が言う。
「まずこの狐の面。お前、初めて九名鎮に会った時被ってたろ。それは55アイスクリームで貰ったんだよな」
「そうさ。顔隠すには都合が良いし。それに玉造稲荷は僕の近所でね。夏祭りを喜びたい訳だよ、地元民としては。まぁ頂いて損は無いし?どう?中々のインパクトだった?」
真帆がふん!と息を荒くする。
その様子を見て、冷静に甲賀が言う。
「じゃ、聞くが。さっきお前が言ったご足労を願ったという意味、どう言うことさ」
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