第36話 届いた音声
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罠と言えばこちらもそうかもしれない。
それは大阪市政策企画室へ掛けられた電話。
掛かって来た電話に女性の担当職員が応対すると内容を聞くに及び回線を「非常用」に切り替えた。
切り替えると通話内容は所定のパソコンに録音され、音声はMp3タイプのファイルとして保存される。
担当職員は電話が切れるのを待って席を立ち、上長の席へ行った。
耳打ち際に小声で部下の職員から報告を受けた上長はつい先日、別の部署で――ある悪戯まがいのメールが届いた事を知っている。
それについては万一の事を考え大阪府警の協力のもと爆発物の探索になったのだが、…確かその時のメールの差出人は
――環境芸術団体「
今、部下の担当職員が報告に来た内容も正しくその団体からの電話だった。
上長は部下に小さな外部メディアを渡すとそれに先程の通話記録を移すように指示し、オリジナルファイルには外部から簡単に聞かれぬよう暗証ロック用のパスワードを掛ける様に言った。
外部メディアに移せば持ち運べ、内臓スピーカー機能で他の職員も聞ける。そして内容に事件性があれば大阪府警への証拠として提出も出来る。
だが、それは勿論、独自に判断は出来ない。組織の上層部の判断を仰がなければならない。
部下が外部メディアを持ってきた。それを受け取ると上長は席を立った。直ぐにでも上層部に知らせねばならないと思ったが、しかし、何かを思いついたのか部下を伴い別室に入った。
(そうだった…)
まずは報告するにしても音声の内容を確認せねばならない。
上長はスーツの上着を手に取り、別室に入ると部下と共に座り、外部メディアを起動した。
やがて音声ファイルが起動して声が室内に響く。
それはノイズが一切聞こえず、正に静寂の中で独り言のように語られている様な口調だった。
……あなた方は未だに芸術の意味が分からないらしい。それは府警の警察官が
我々は…「アート建造物」と言ったにもかかわらず、それをこうも間違えられたら気分を害すると言うか失望に近い…。
しかしながら…だからと言って我々が爆弾を仕掛けないということではない。逆に失望が、我々の大きな希望になった。
今一度、「アート建造物」を良く探されてみてはいかがか?…
そこに今日丁度午後二時の暑い時間に爆発するよう爆弾を仕掛けた。
…十分、勉強されて爆弾を見つけて爆破を阻止されれば良し、…もし間に合わねば、この暑い最中に幾分かの御礼を空から降らせていただくことになるでしょう。
では、まずはあなた方に我々からの一報をお届けします。
…それでは
環境芸術団体「
「…これか?」
上長が部下に言う。
「間違いないです。冒頭は…普通の肉声だったのですが、途中でこの録音されたファイルが電話向うで回っている感じでした」
上長は頷くと部下に部署に戻るように言った。
彼は部屋に設置されている内線に手を伸ばして掛けた。繋がった先は以前爆破予告メールを受けた部署が掛けた先と同じ部署。
端的に訪問内容を告げると上長は外部メディアを落とさぬよう紙封筒に入れスーツの上着を着ると別室を出て内線を掛けた部署へと足早に歩いて行った。
時刻は丁度正午を過ぎたばかり。夏の太陽がギラつく時間は始まったばかりだった。
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